するめ基金使い途のご報告
 文=都築響一

自動車工場の一角につくられたライブハウス。

 一昔前は「町おこし」と言えばB級グルメとゆるキャラだったが、いまは音楽祭とアートフェス。いったいいま、日本各地にどれだけ音楽とアートのイベントがあるのだろう。20年前には野外音楽フェスはフジロックぐらいだったし、越後妻有や横浜トリエンナーレが始まったのは2000~01年だ。

 予想を上回る寄附をいただいて、するめ基金の使い途を決めることになって、村上春樹さんはやっぱり文学だから以前みんなで訪れた夏目漱石邸の修復を、吉本由美さんは猫好きだから熊本市動植物園の修復を寄附先に選んでいた。

 「都築くんはどうするの?」とふたりに言われて、ちょうどいい音楽やアートのイベントがあったらと思ったけれど、いわゆる「町おこし」系のイベントを選ぶのには、正直言って少し違和感があった。音楽にしてもアートにしても、そういうのってたいてい東京や、予算があれば海外からアーティストを呼んで何日間か騒いで、祭りが終わればもとどおり、そこには昼なお薄暗いシャッター商店街……みたいな結末だから。

 いくつか候補をいただいたなかで、いちばん気になったのが『熊本地震復興ライブin西原村』という催し。場所は「ライブハウスくぼたくんち」……って、どこそれ? 西原村というのも聞いたことないし! 出演ミュージシャンもひとりも知らなければ、司会の「うんばば中尾」って……だれ?

 西原村は阿蘇のふもとの「熊本市からいちばん近い村」だそうで、人口6700人ほどのコミュニティ。そんな村の「くぼたくんち」は、『久保田自動車』という自動車工場の敷地内につくられたライブハウスだそう。めっちゃローカル……。さらに「寄附をもらえたら出演ミュージシャンにギャラが払えます!」という切実な訴えを聞いて、「くぼたくんち」に基金の僕の割り当て分を使っていただくことにしたのだった。

ライブには7組のミュージシャンが参加。

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2017.12.12(火)
文・撮影=都築響一

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この記事の掲載号

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