チャップリンが晩年を過ごした
コルシエ村にミュージアムが!

 ロンドン出身の喜劇王チャーリー・チャップリンは、数々の素晴らしい作品を生み出した後、レマン湖畔のコルシエ村で晩年の25年間を過ごしました。そして、没後約40年の2016年4月に、構想から15年の歳月を経てついに「チャップリンズ・ワールド」がオープン! 彼が家族と過ごした邸宅「マノワール・ド・バン(The Manoir de Ban)」と「庭(The Park)」、「スタジオ(The Studio)」からなる、楽しいメモリアルミュージアムです。

チャップリンズ・ワールドのエントランス。ここでチケットを購入。

 入館すると、まず案内されるのがミニシアター。ここでチャップリンの紹介と彼が手掛けた数々の名作のハイライトが映し出され、一気にチャップリンの世界に引き込まれます。

まずはミニシアターで、銀幕のなかのチャップリンを楽しみます。

 上映が終わり、スクリーンが上がると、その先は映画のセットの中。あっと驚きの演出です。

1928年に公開された『サーカス/The Circusをイメージしたセット。スタントなしでの綱渡りなどが評価され、第1回アカデミー賞では特別賞を受賞。

 ロンドンでの子供時代の生活風景から始まり、有名シーンの撮影セットをイメージした空間やサイレント映画の上映、さらにパリの有名な蝋人形館で知られる「グレヴァン」の協力による共演者や友人の蝋人形が約30体も展示され、チャップリンが活躍した時代をリアルに再現されています。

チャップリンのモノクロの世界を再現。
『モダン・タイムス/Modern Times』をはじめ、名画のワンシーンに飛び込んだような空間も。

 完璧主義者として知られていたチャップリン。監督、主演だけではなく脚本や演出も自らが担当し、わずか数秒のシーンでも納得のいくまで何百テイクと撮り直したといいます。

 1913年、チャップリンはカーノ劇団の2度目のアメリカ巡業の際に、映画プロデューサー、マック・セネットの目にとまり、週給150ドルの契約で有名なキーストン社に入社。翌1914年、『成功争ひ/Making a Living』で映画デビューを果たします。セネットから「面白い格好をしろ」と要求されたチャップリンは、頭には山高帽、窮屈な上着にだぶだぶのズボンとドタ靴、そしてちょび髭にステッキという扮装を考案。さらにどたどたしたペンギン歩きを編みだし、“小さな放浪者(Little Tramp)”は、彼の愛称となりました。

 そして2作目の『ヴェニスの子供自動車競走/Kid Auto Races at Venice』に出演。以降、1940年の『独裁者/The Great Dictator』まで、このスタイルはチャップリンのトレードマークであり続けます。路上生活者だが紳士としての威厳をもち、優雅な物腰と持ち前の反骨精神でブルジョワたちを茶化しては、権力を振りかざす者を笑い飛ばす、そんな独自の表現で喝采を浴びることになるのです。

『黄金狂時代』のセットを再現したスペース。映画同様に山小屋が実際に傾き、チャップリンとともにリアルな映画の世界を体験できる。

 喜劇王チャップリンの作品の中でも、とりわけ傑作として名高いのが、1925年に公開された『黄金狂時代/The Gold Rush』。飢えや孤独などに翻弄されながら、黄金を求めて狂奔する人々をチャップリンならではのヒューマニズムとギャグで面白おかしく描いた作品です。

 空腹のあまりチャップリンが革靴を茹でて食べるシーンがあまりにも有名ですが、なんと実際には、靴は海藻で作ったもの。釘は飴細工、靴紐はイカ墨のスパゲッティを使用し、何度も食べたせいで下痢に悩まされたという逸話も……。雪は、塩と小麦粉で代用したそうです。

左:帽子をかぶり、ステッキを持てば、誰でもチャップリンに!
右:今にも動き出しそうな蝋人形。表情も顔色も豊か。

文・撮影=西村志津