米国ではEDMブームは終わっている

山口 EDMの震源地はヨーロッパというのが僕の認識ですが、アメリカで流行ったことで世界的な潮流になりましたね。

伊藤 はい、ヨーロッパのDJたちがこぞってUSに行くようになり、そこでEDMという言葉が生まれたんじゃないかな。日本のメジャーシーンでいうと、安室奈美恵がEDMの先駆けという印象でした。その後、LDHによってムーブメントが作られた感じ。

山口 三代目J Soul Brothersの「R.Y.U.S.E.I.」が日本におけるEDMブームの象徴ですね、あれを象徴と見るか、矮小化による終焉と見るかは、評価が分かれるところでしょうが。Jポップらしい出来事ではあると思います。

伊藤  確かに「R.Y.U.S.E.I.」は日本におけるEDM最大のヒット曲でした。今でもあの手のEDMテイストな曲はたくさんありますけど、もうUSだとまったく聴かれていないですね。2016年の10月にLAでライティングキャンプをしたんですけど、クリエイターからは“この手のEDMはもう終わってる”という感じ。いかにもEDMっていうサウンド感は古いし、そもそも130~140BPM(Beat Per Minuteの略。1分間にいくつ拍があるかを示す、楽曲のテンポの指標)とか誰も作っていなかったです。

山口 日本でも一線級のクリエイターの関心は3年くらい前から「ポストEDMは何か?」ですよね。浅田祐介さんと「山口ゼミ」の講義の時に、トラップやフューチャーベースについて熱く語っていたのは、既に懐かしいです。

伊藤 まさに次は何? ってタイミングですよね。トロピカルハウスも盛り上がったけど、日本では定着しなかったし。2016年7月にリリースされたザ・チェインスモーカーズ「クローサー feat. ホールジー」が世界中で大ヒットしましたが、最近ようやく日本のアーティストやメーカーA&Rからザ・チェインスモーカーズの名前がよく聞かれるようになりました。

山口 ザ・チェインスモーカーズいいですよね。日本での所属レーベルであるSMEの今の悩みは、「クローサー」は広まったけれど、アーティスト認知が足らないことだそうです。昔からあった現象ですが、ストリーミングサービスが音楽消費の主流になったことの特徴でもあると思います。

伊藤 まぁ彼らはDJですからね。もちろん超セレブですけど、相変わらずジーンズにTシャツにひげ面みたいな(笑)。ザ・チェインスモーカーズはもともとEDM系のDJユニットですが、「クローサー」のヒットで一躍“時の人”になり、彼らこそが今一番旬なサウンドを生んでいる。名前はまだついていないけれど、ザ・チェインスモーカーズとそのフォロワーたちがEDMに代わるジャンルを作るでしょうね。それがフューチャーベースっていう人もいますが、まだちょっと芯を食っていない感じがしています。でも、新しくて強いトレンドが生まれている予感はします。

山口 ポストEDMという言葉がそれほどハマる感じはしませんが、ユーザーにとってはちょうど心地よい変化なのかもしれません。

伊藤 あと、海外でのトレンドが日本に持ち込まれるまでには少し時間がかかりますが、年々そのスピードは速くなっています。「クローサー」っぽいものを作ることはできるけど、本当の意味でのトレンドを掴むっていうのは、しっかりとした見極めと、本物感が必要ですよ。モノマネではだめなんです、しっかりとトレンドに乗っかってないと!

山口 どこか歌謡的な打ち出しがあること、それと日本語歌詞との組合せですね。

2017.03.15(水)
文=山口哲一、伊藤涼