佐々木俊尚のニュース解体新書

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9月1日に集中する少年の自殺
鎌倉市図書館のツイートが話題に

【KEY WORD:9月の自殺者】

鎌倉市図書館の公式ツイッターアカウント(外部リンク)が8月末、次のようなツイートをして話題になりました。

「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね」

 この背景には、少年の自殺が9月1日に集中しているという悲しい事実があります。内閣府が18歳以下の自殺人数を日付別に分析してみたところ、この日が突出して多かったというのですね。そして8月下旬から9月上旬にかけて増加していく傾向もあるようです。

 文部科学省はこのデータを受けて全国の教育委員会に、児童や生徒への見守りを強化することを求める通知を出しています。でもこんな通知を出しても、おそらくほとんど効果は期待できないでしょう。文科省から学校現場へは、通知やらアンケート調査やら山のような書類が届いています。前に学校教育の専門家の方に聞いた話ですが、文科省が公立学校の教員に「もっとも手間のかかっている仕事は何か」と聞くアンケート調査票を送ったところ、なんと1位は「文科省からの調査票」という笑い話のような結果になったことがあったとか。

 学校現場は疲弊していて、このような文科省や教育委員会からの各種問い合わせや照会、書類の作成と、保護者への対応などで日中の時間の大半が奪われてしまうと、先の専門家はおっしゃっていました。結局、先生たちは自宅に戻ってから自宅残業のようにして明日の授業の準備をしなければならないのだと。こういう状況で、どこまでいじめなどの問題に対応できるのかと考えれば、かなり悲観的な感じがします。

 さらに、いじめなどの問題に学校現場そのものが対処するということが、実は難しいのかもしれません。

 学校のいじめに限らず、日本の共同体の問題は「同調圧力の強さ」です。人々が集まってグループを作ると、必ず「みんな一緒にならなければならない」というような同調圧力が起きる。これがポジティブに作用しているうちは、「きずな」と呼ばれてグループの結束を固め、なにかの目標に邁進するためのエンジンになります。しかし一歩間違えると、ブラック企業やいじめを引き起こすのです。

「みんな仲良くしましょう」というスローガンの落とし穴

 学校でも企業でも、あるいは昔の農村でも、日本の共同体では必ず「みんな仲良くしましょう」というスローガンが謳われる。でもこのスローガンには大きな落とし穴があります。それは、「仲良くできない人を排除してしまう」という問題。

 社会にはいろんな人がいます。他人とのコミュニケーションに問題を抱えている人。人とは違う性格や嗜好の人。ひとりでいるのが好きな人。LGBT。多様な人たちがともに普通に暮らしていけるのが理想なのですが、そこに必要なのは一種の儀礼的無関心です。自分と違う部分があるからといって、余計に詮索しないこと。「世の中にはいろんな人がいるよね」と思える姿勢。

 ところが「みんなで仲良くしましょう」と求めすぎると、日本では「みんなが同じようにしなければ仲良くなれない」という方向に突っ走ってしまう傾向があります。この結末が「○○君は、みんなと仲良くできないのでいけないと思います!」という糾弾につながってしまうのです。

 同調圧力を避けるためには、あまり仲良くし過ぎないことが大切だと私は考えています。しかし同調圧力の高い共同体ができあがってしまって、それを壊すのが難しいのであれば、逃れる方法はただひとつ。共同体に風穴を開けて、他の空間、他の人たちとつながることなんですね。

 私の若い友人は中学時代に学校で酷いいじめに遭い、しかし閉塞的な地方都市で逃れる場所もなく苦しみました。しかしあるとき、意を決して隣町でいじめ問題に取り組んでいたNGOに相談に行き、そこで大人の友人たちと出会ったことによって、「ああ! 自分の学校以外にも世界はあったんだ」と当たり前のことに気づき、その風穴を頼りにしていじめの空間から逃れることができたそうです。

 こういう風穴が社会のあちこちに用意されていることが、いまの日本には大切なのではないでしょうか。

 大きな共同体が喪失し、一方で小さな同調圧力の強い共同体が生き残り、大きな物語に拠ることもできなければ、自由を感じるのも難しくなっているという二面の壁にぶつかっている現代の日本人。かつて歴史学者網野善彦が「アジール(無縁)」と呼んだようなそういう場所が、いま日本には痛切に求められているように思えます。

 そう考えれば図書館のような場所は、誰も排除せず誰も同調圧力を求めない“書物のアジール”としてあり得るのかもしれません。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

2015.09.14(月)

文=佐々木俊尚

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