佐々木俊尚のニュース解体新書

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新国立競技場建設計画が白紙撤回
2020年東京五輪、開催の意義とは?

【KEY WORD:2020年東京五輪】

 2020年東京五輪のための新国立競技場建設計画が、白紙に戻りました。もうさんざん報じられていることですが、安倍首相が白紙撤回を表明して、できる限りコストを抑えたうえで秋までに現実的な計画を作るとしています。どのような計画になるのかは未定ですが、自民党の行政改革推進本部からは、もう競技場を新しく作るのはやめて、駒沢の陸上競技場や埼玉スタジアム、日産スタジアムなど他のスタジアムを利用しようという提言も出ています。

 経緯が錯綜し、情報がたくさんあってややこしい問題です。でも根底に立ち返って考えるのであれば、そもそも何のために東京でオリンピックを開くのか? ということからもう一度問い直すべきだとわたしは考えています。

 オリンピックを開くということには、かつて国威発揚の意味があったのは間違いありません。1936年、ナチスドイツのベルリン五輪はその典型的なケースとして歴史に残っていますが、1964年の東京五輪も同じような意味あいがありました。敗戦の焼け跡から出発した戦後日本が高度成長を実現し、世界最先端の東海道新幹線を開通させる中で開かれ、先進国の仲間入りをするという花道として用意されたのがこのときの五輪だったのです。

 さらには2008年の北京五輪も。19世紀終わりから20世紀にかけて没落していた中国が、再び世界の超大国として復活してきたジャストタイミングでの開催だったといえるでしょう。

 しかしこのような国威発揚は、いまの世界情勢の中では特に先進国にとってはあまり意味がありません。成熟し、派手な祝祭よりも健全な日常に重きを置くような文化が発展している中で、国家への訴求力を求める必要はもはやありません。

 おまけに五輪にかかる経費は年々、高くなっています。東京五輪の招致でも「成熟都市での開催」ということが謳われていましたが、先進国はどこも財政が逼迫しており、なぜ成熟都市で五輪を開催するのか? というそもそもの意味と、高額の負担とのバランスをどうとるのか? ということが問われているわけです。

 そのバランスの悪さが露呈したのが、2022年の冬季五輪招致合戦だといえるでしょう。当初はドイツのミュンヘンやスイスのサンモリッツ、スウェーデンのストックホルム、ポーランドのクラクフ、ノルウェーのオスロなどヨーロッパのさまざまな都市が名乗りを上げていましたが、民意の離反や財政難などですべて辞退。結局残ったのは中国の北京とカザフスタンのアルマトイで、北京に決定しました。

 実のところ中国もカザフスタンも、専制支配的な国家です。専制国家だけの2カ国が五輪招致合戦に最後まで残ったというのは、いまの五輪招致をめぐる状況をなんだか暗示しているようにも思えますね。

成熟都市ならではの先端性を充実させる

 そういう状況の中での、2020年東京五輪。できるだけ余計なお金を使わず、成熟した都市にふさわしいスポーツの祭典ということを考えるのであれば、際限なくふくらむ派手な新国立競技場というのはあまりにもふさわしくなく、白紙撤回となったのは喜ばしいことだといえるでしょう。

 招致の際に発表されたビジョンでは、東京五輪は「成熟都市で開催することで、確立されたインフラや安定した社会から生まれるあらゆる恩恵を示す」「優れた交通網と輸送システム及び豊富な宿泊施設によるスムーズな大会運営の実施」などとアピールされています。素晴らしい内容だと思いますが、実際には日本の公共交通機関はインターネットによる英語での予約もしにくく、外国人には使いにくいと悪評です。無料の無線LANも海外に比べれば圧倒的に少ないのが現状です。東京はさまざまなインフラを外国人がうまく使いこなせるような仕組みが整っていないのです。

 新しいハコモノをどう作るのかという議論にいまさら終始するのではなく、こういうソフト面での不備をきちんと改めていき、海外から五輪にやってきた人たちが気持ち良くすごせて、日本の街のイノベーティブな先端性に触れて驚愕するような体制を整えていってほしいと思います。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

2015.08.14(金)

文=佐々木俊尚

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