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「10分・5カット」の撮影が生み出した表現

 常に創意を尽くすべきことの実例を、瀧本さんに挙げてもらった。雑誌『CUT』で女優・中谷美紀さんを撮影した仕事。

「映画の公開に合わせた取材で、中谷さんは1日に何本もの取材を受けるスケジュールとなっていました。媒体ごとに割り当てられる場所と時間は、ホテルの一室で50分のインタビュー+10分の撮影のみ。編集部の要望としては、5カットほど欲しいとのこと。

 10分で5カットとなればふつうに考えて、ソファに座ってもらい引きと寄りのカットを撮り、脇に立てておいた白バックのスクリーン前に立ってもらい引きと寄りを撮り、あとは横顔も押さえておこうというくらいしかできない。

 それなら時間内に撮り切ることはできそうだけど、新味はとくにない。そこで『10分』『5カット』という要件と向き合い考え直してみました。思いついたのは、ワンシャッターで5カット撮っちゃえばいいんじゃないかというアイデア。

 室内に5台のカメラを据え置いて、シャッターを押せばすべて同時に撮影できるようなしくみを工夫しました。5枚の写真が同じ瞬間を撮っているものだとわかるように、水の入ったグラスを中谷さんに持ってもらい、それを落とした瞬間を写しました。

 結果として緊迫感ある、そして見たことのない5枚組の写真を撮ることができました。あきらめず考えを尽くした末の、発想の転換が生み出した表現です。

 こういうことをすると、準備は大変なことになってしまいます。このときも前日の夜から撮影間際まで、十数時間を費やしました。それぞれのカメラが写り込まない位置を割り出したり、ブレのないかっちりした画面にしたかったので露出やシャッタースピードを何度も検討したり。

 『10分しかないんだったらどうせこんなのしか撮れないよ』などと愚痴を言っていても始まりません。それよりもまずは考えて、とにかく動くことが大事ですね」

2024.04.04(木)
文=山内宏泰