『ぶんこでいず』の誕生
店内に入ると、真っ直ぐ2階のコミック・ラノベ売り場へ直行する人もいるとかで、なんとか下のフロアにも来てほしいし、来たからには本を手に取ってもらいたいと、1階フロアの担当である中村さん。そんな思いがPOP広告や帯に結びついている。
文庫中心でコンパクトな売り場なので、あまり大きなPOPは使用しない。小さな文庫本を隠さないように、ポイントポイントに添えられた名刺大のショウカードと、中村さん渾身のオリジナル帯が中心になる。料理がテーマの短編集には、作中に登場するおせち料理の画像を使ってカラフルに、ブラックなミステリーには、ペンでひたすら塗りつぶした真っ黒な帯。パソコンやスクリーントーンを使わないオール手描き、しかも、A3のシートから取れる5本の帯は、コピー機での複製ではなく、全て手描き(ペン描きの繊細さや、カラーの鮮やかさが活きている)という徹底ぶり。
ネタバレで興味をそがないように、できるだけあらすじは載せず、心に残った言葉を一言だけ、もしくは自身の言葉で印象をストレートに伝えるのが中村流。平台に積んである本や正面を向けて陳列した本だけでなく、棚に差してあるものにも手作り帯が巻いてある。POPと合わせて、中村さんも何作品くらいあるのか数えていないらしい。
そんなオススメの集大成が、月刊『ぶんこでいず』、ねこ村さんこと文庫担当中村さん作、スタッフのオススメ文庫と、その時々のテーマに沿った選書の楽しいフリーペーパーだ。オール手描き、細密なペンのタッチとユーモアにあふれた温かいコメントは、POPや帯とも共通する。毎月の制作にはかなり時間をかけ、前号を出した直後に、もう次の号の選書を始めているとのこと。その魅力は口コミで全国各地の書店員さんに伝わり、お店やチェーンを超えて、毎月配布している本屋さんも多いという。
右:愛らしさいっぱいの『ぶんこでいず』
本屋さんは、基本商圏内のビジネスで、遠方のお店とはあまり競合しないということもあってか、書店員さん同士、仲がいい。もちろんライバル意識もあるけれど、どんな本がオススメとかこうやったら売れたよとかいう情報交換からはじまって、フリーペーパーやPOPを交換したり、休日に連れ立って本屋巡りをしたり、紀伊國屋書店横浜みなとみらい店さんの記事で紹介したように、都道府県単位でイベントや賞を運営することもある。今、最も本を売る力があるとされる、本屋大賞もそんな書店員さんの活動の延長線上にある。
そうしたネットワークの中で、大阪・寝屋川のねこ村さんの『ぶんこでいず』が神奈川・平塚の本屋さんで配られていたのだ。もちろん、この連載「週末の旅は本屋さん」でも、取材のたびに書店員ネットワークを活用させていただいている。この本屋さん面白かったよ、ここの書店員さんがんばってるという情報が寄せられる。さあ、次の取材はどこへ行こうかな。
【CREA WEB読者にオススメ】
中村真理子さんのオススメ本は、柚木麻子さんの『あまからカルテット』(文春文庫)。もうここは、中村さんの言葉から引用させていただこう。「30代女子必読、美味しいものと友達があれば恋に破れても仕事に波が立っても生きていける!? 今すぐ友達に会いたくなる! 笑いあり、涙あり、美味しいものありの無敵小説です」
帰りの新幹線で読んで、友達に会いたくなるよりも先に稲荷寿司が食べたくなる副作用が出た。皆様もご注意を。
TSUTAYA寝屋川駅前店
所在地 大阪府寝屋川市八坂町16-19ウェストビル
営業時間 9:00~1:00
URL http://store.tsutaya.co.jp/storelocator/detail/5218.html
Twitter https://twitter.com/T_NEYAGAWA
小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。
Column
週末の旅は本屋さん
新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!
2014.02.13(木)