過去に意図せず触れる。その感覚こそが、京都という街の魅力であり、同時に、本書が描き出した美しい瞬間でもある。

 私たちは、過去をこの目で見ることができない。どんな凄惨な歴史も、悲しい叫びも、いつの間にか忘れられてしまう。しかしそれでも、場所を通して、過去の記憶を呼び覚ますことはできる。読者もまた、本書を読みながら、京都の街を歩きながら、切なくも鮮やかな歴史に触れることができる。それは何にも代えがたい読書体験になるのではないだろうか。

まきめまなぶ/1976年大阪府生まれ。2006年にボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー。同作の他、『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』など映像化作品も多数。
 

みやけかほ/1994年生まれ。書評家。著書に『人生を狂わす名著50』『名場面でわかる 刺さる小説の技術』等。

2023.09.18(月)
文=三宅 香帆