往路は王女、復路は女王に

 エリザベス女王が、王女から女王になったときの興味深い航空記録も、ヘリテージ・センターには保管されていました。

 「1952年の1月31日、エリザベス王女は休暇としてケニアに旅立ちます。その後オーストラリアに船で行く旅程でしたが、ジョージ6世が亡くなり、急遽ロンドンに戻ってきます。フライト記録の往路には小さな王冠が、復路には大きな王冠が描かれているのです」とジムさんはふたつのチャートを見せてくれました。

 この復路の飛行機のなかで、エリザベス女王が母親から受け取ったメッセージもまた、ヘリテージ・センターに展示されていました。無線オペレーターを通じて、バッキンガム宮殿のエリザベス王太后から機上の新女王に送られた黄色いカードには「All my thoughts and prayers are with you mummie Buckingham Palace」(私のすべての思いと祈りはあなたとともに。バッキンガム宮殿の母より)と記されていて、心を打ちます。

 そのほか、王族がBAを利用するたびに記帳する分厚いVIPビジターブックもあり、皇太子時代のチャールズ国王と故ダイアナ妃のサインや、85歳の誕生日のの記念にコンコルドに搭乗したエリザベス王太后の記録も残っていました。

歴代の制服コレクションも堪能

 ヘリテージ・センターには、BAの歴代そして世界の制服コレクションも展示されています。

 1950年代から70年代にかけて、日本便のファーストクラスでは、着物を身につけたキャビンクルーが、機内サービスを提供していました。しかしなんと、その着物は、会社から衣装代を手渡されたキャビンクルーが各自、日本の呉服店で調達していたとのこと。

 「この頃の規定では、着物を着たクルーは、非常時にはスタッフとしてではなく、乗客として扱われることが決められていました。この服装ではドアを開けるなどの動作が難しいと判断されていたからです」とジムさんは話します。

 そんなBAの最新の制服が今年の春から、一斉にお目見え。約20年ぶりに刷新された制服は、英国人デザイナー、オズワルド・ボーテングの手によるもので、さまざまな職種に就く3万人以上ものスタッフが着用しているとのこと。空港に足を運ぶ際には、ぜひ注目を。

2023.08.25(金)
文=安田 和代(KRess Europe)
撮影=榎本 麻美
協力=ブリティッシュ エアウェイズ、英国政府観光庁