山に森、海に霧……大島ならではの風景

 伊豆大島にいると、ガイドブックには載っていない絶景がふとした拍子に眼前に現れる。

 メジャーな断層や裏砂漠も圧巻だが、路地裏の岩や椿でできたトンネル、坂を上り切ったときに広がる大きな三原山、緑の向こうに遠く望む穏やかな海……。思いがけず現れる自然の絶景と出合えると、「旅をしていて良かった」とご褒美をもらったような気持ちになる。

 特に三原山は角度によって“顔つき”が違い、面白い。たとえば、上の写真は、噴火によって頭が飛んでしまったのがよく分かる。

 うっすらと緑に覆われ始めているが、数年前には斜面は真っ黒だったそうだ。おそらくこれから、年単位で緑が濃くなっていくのだろう。そんな移ろいも、大島ならではなのかもしれない。

 また、三原山を囲むように形成されている森の表情も味わい深い。1ページ目のトレッキングコースにある「こもれびトンネル」のように、1986年の噴火によって焼き尽くされたため、ほぼ同じサイズに育っている椿の木々が独特のファンタジックな森を織り成している。

 これらの椿のトンネルや森は、一歩路地を入るとふいに現れたりもするからまるで宝探しだ。

 同時に、焼失を免れた森林は何百年も手つかずで、迫力満点。それが神社を囲んでいたりもするので、なんとなく神の采配を感じてしまう。

 三原山の山麓では素敵な出合いがあった。三原山登山道路を走っていると、道路脇の柵から馬が顔を出している。何の看板もないがここは「ブルーヘイズ農場」で、小型の国産馬、与那国馬が放牧されている。

 いわゆる観光乗馬もできるが、ホースセラピーが主目的。心身に障がいをもつ人たち、心に問題を抱えた子どもたちのセラピーを行っている。なんとも穏やかな与那国馬たちの世話をし、触れ合い方を学び、背に乗ることで、心が癒やされたり自信がついたりするそうだ。

 農場から眺める三原山はとても大きく、馬の背から眺めるとさぞかし雄大だろう。もちろん一般客も馬と触れ合うことができるので、電話やメールで相談してみよう。

 さて、大島は“霧の島”とも呼ばれていて、一定の条件が揃うと、三原山の山頂から霧の塊がどっと押し寄せるのだ。運転が危険なほど濃いこともあるので細心の注意が必要だが、霧や雨の大島もまた風情がある。

 そんなときは「天気が悪い」と思わずに、霧に煙る三原山の美しさを見上げよう。椿のトンネルもしっとりと濡れていきいきとしており、1日くらいは霧や小雨でも、と思えるほど、また様子が違って美しい。

 ぐるりと島を囲んだ荒々しい岸壁と穏やかな太平洋、日向ぼっこしている猫たち、椿と大島桜だけではない四季折々の花も。

 大島の景色のご馳走は、表情豊かで、あちこちにふと現れる。きっとすべての景色は見つけきれず、次に訪れたときの楽しみになる。

 大島の自然はガイドブックに頼らずに、自分の足で探し、ばったりと出合うのが醍醐味なのかもしれない。

伊豆大島へのアクセス

東京・竹芝桟橋から高速ジェット船で最短1時間45分、大型客船(夜行)で最短6時間。熱海港からは高速ジェット船で最短45分。調布飛行場から大島空港まで、乗客19人乗りの小型飛行機で約25分。

文=CREA編集部
写真=Sai