クライマックスで清原果耶が、佐藤健が、阿部寛が見せる演技の素晴らしさを説明してしまうことは、この映画の核心を明かすことになるので避けよう。ただひとつ言えることは、この映画は正しい人間と悪い人間を分けるために作られた映画ではないということだ。
「死んでいい人なんていないんだ」と予告編で佐藤健が演じる利根は清原果耶演じる円山につぶやく。予告編だけ見れば「きれいごと」に見えるその言葉が、映画を見終わったあとでは全く別の響きに聞こえてくる、善も悪も内包した生を描く映画として『護られなかった者たちへ』は作られている。「この職業のこの人物がすべて悪い」という安直な結論を避けるために、すべての役に各世代の名優を投入する総力戦のような配役が行われている。
「きれいごと」をのりこえて、物語の結末へ
「ただいま、カンちゃん」という映画の中の利根のセリフを、「おかえり」に変えてはどうか、と提案したのは演じる佐藤健本人なのだという。詳細は明かさないが、それは『護られなかった者たちへ』のクライマックスで待つ、とあるシーンと深く関係している。
だがそれは同時にもうひとつ、偶然にも、被災地を舞台にしたもう一つの作品、対極のメディアで放送される朝の連続テレビ小説とこの映画をつなぐ一本の糸にもなっている。
安達奈緒子脚本が導く『おかえりモネ』はこの10月、「きれいごと」をのりこえて、物語の結末に向かうのだろう。菅波と百音、亮と未知たち、引き裂かれた東京と被災地の物語に脚本が託した意味も、そこで明らかになるはずだ。『おかえりモネ』と『護られなかった者たちへ』のように、別々の場所で作られた作品が、対極の道をたどりながら同じ問題意識を共有することもあるのだ。
清原果耶という若い1人の俳優で繋がる2つの作品を、この10月に見届けるのは稀有な経験になるのではないかと思う。
2020/10/17 12:36……読者からの指摘を受け、以下内容を修正いたしました。
「『8年越しの花嫁』の佐藤健は、モデル出身の端正な顔立ちから」→「『8年越しの花嫁』の佐藤健は、端正な顔立ちから」
2020/10/18 14:08……読者からの指摘を受け、映画『護られなかった者たちへ』の公開日の記述を修正しました。
2021.10.26(火)
文=CDB