イタリア・トスカーナの町歩き
春の海とスパゲッティ・ボンゴレ

絶品スパゲッティ・ボンゴレ

 そのお店は「La Pineta」、海に手が届きそうな海岸線にあります。店内の窓はすべて青い海に臨み、その美しい眺めに包まれながら食事の出来る和やかな空間です。

左：オーナーシェフのルチアーノさん。この地で生まれ育ち、この海のおいしさを知り尽くした達人
右：朝届いたばかりの新鮮な天然アサリ。手前3つがこの地の在来種のアサリ

 今日は特に天然のいいアサリが入ったよ。説明してくれたのはオーナーシェフのルチアーノさん。この地方の在来種のアサリは、細かい縞模様と横に少し長い形が特徴。身は締まって、味わい深いのだそう。

 ミネラル豊富なこの土地は、おいしいぶどうを育てるように、海産も豊かに育みます。さらに、島を有する地形が生み出す海流がこの海のおいしい魚介を育てるんだよと教えてくれました。これからはアサリ、夏には手長エビなど、季節によってさまざまなおいしい魚介が獲れるそう。そのおいしい旬の地魚を知人や親戚の漁師さんから直接仕入れているそうで、キッチンには獲れたての新鮮な食材がいっぱいでした。

評判の「Spaghetti Vongre」は、イタリアのグルメ雑誌で一番おいしいスパゲッティ・ボンゴレに選ばれたこともある評判の逸品

 窓に海を眺めながら、ワインと前菜を軽くいただいて、いよいよお目当てのスパゲッティ・ボンゴレ。やわらかな湯気に潮の香りがただよう。あれ、貝の色がさっきと違う。湯がいたことで華やかな赤茶色に色づいている。きれい！ その歯ごたえがまたプリプリと心地よく、1、2、3回と噛んでいくうちにアサリの旨味がそっとひろがっていく。んー、おいしい！ そして、スパゲッティ。もちもちとした歯ごたえ、噛む程に深い味わいが口に広がる。スパゲッティってこんなにおいしかったっけ？

 後でその秘密を聞いたら、トレント産のカムットという古代小麦を使ったパスタなのだそう。普通の小麦より、より深い味わいを持つ。そこにほどよくとろりとソースが絡み、実に絶妙のおいしさ。これは評判にもなります。

 職業柄、よくレストランに取材に行きますが、仕事を越えて、今日、とてつもなくここに来て良かったと思いました。それは美しい眺めをもつ穏やかな空間とおいしい食事、何よりもそれを真心込めて作る、そんな人々に会えたからだと思います。

 日本もそろそろ春ですね。きらきらと春の光を湛えた海はきっと穏やかに迎えてくれるでしょう。そして、そこにはおいしい春の食材が待っているかもしれません。

藤原亮子 (ふじはら りょうこ)
イタリア・フィレンツェ在住フォトグラファー＆ライター。東京でカメラマンとして活動後、'09年、イタリアの明るい太陽(と、おいしい食べ物)に魅せられて渡伊。現在、取材・撮影・執筆活動をしつつ、イタリアの伸びやかな景色をテーマに写真作品も制作中。イタリアでの日々をつづったフェイスブック www.facebook.com/chococogogo