規模や様式は様々なれどつくり手の思いがつまった庭は、いつの時代も私たちに豊かな喜びをもたらす。

 著名な4人の作庭家が語る、自然に対する思いと庭づくりの美学とは。


京都で170年以上日本庭園を“はぐくむ”庭師

●加藤友規さん[植彌加藤造園]

 京都で170年以上日本庭園を“はぐくむ”植彌加藤造園の代表・加藤友規さん。

 南禅寺、東本願寺、智積院などの文化財庭園の育成、昨秋のJR東海のCMで話題を呼んだくろ谷金戒光明寺(1)の作庭も手がける。

「日本庭園の景色を構成するときに『はぐくむ』という言葉を使います。それは、現状維持ではなく、現状を踏まえ過去の尊い営為を知り、その上で未来に向けて育成を行うという意味です」

 御用庭師として172年間携わる、京都を代表する名所、南禅寺(2)。

「南禅寺さんのお庭の多くは、京都が観光産業に向き合い始めた前回の五輪(1964年)前後、祖父や父の代に作庭に関わらせていただきました」

 日本人の心象景色に残る、あの紅葉や桜が植えられたのが実は近年だったことに驚く。

 伝統を守りつつ新たな価値を取り入れる柔軟さで色褪せることのない風景が保たれる。

 また、現代の建築基準法を満たしながら、職人の伝統的な技を活かす独自の新工法も開発。

 星のや東京(3)での作庭時には、施工難易度が熟練工でも非常に高い「あられこぼし」という敷石の伝統技術を、京都でパーツに分けて施工し、それを東京で組み合わす方法で建築基準と工期を解決。

「日本最古の作庭書である『作庭記』には、自然への敬意を底流とした考えが記されています。

 私は「無作為の作意」とよく表現しますが、庭師の作為を見せないことを美学としています。これ見よがしではないこと。

 地形、地質、気候、風土、歴史、文化を知り、その場に寄り添う。訪れた人の心の中に庭が残ればいいのです」

 庭園の施工のみでなく、近年では観光スポットでもある国の名勝無鄰庵庭園(4)などをはじめとした文化財施設の運営も事業化している。

「庭をよく知る私たちだからこそできる伝え方が今後の庭をはぐくむことそのものだと考えます」

加藤友規(かとう ともき)さん

2005年に植彌加藤造園の代表取締役社長に就任。2013年に日本造園学会賞研究論文部門、2018年には日本イコモス賞、日本造園学会賞技術部門を受賞。国指定名勝庭園や京都の寺院庭園を数多く手がける。京都芸術大学教授。

Feature

庭師という美学

Text=Mayumi Amano
Photographs=Tomoki Kato