規模や様式は様々なれどつくり手の思いがつまった庭は、いつの時代も私たちに豊かな喜びをもたらす。

 著名な4人の作庭家が語る、自然に対する思いと庭づくりの美学とは。


庭は生活や建築にそっと寄り添い、優しく包み込んでくれる

●荻野寿也さん[荻野寿也景観設計]

「庭はそこで営まれる生活や建築にそっと寄り添い、優しく包み込んでくれるもの」と作庭家・荻野寿也さんは話す。

 建築関係の仕事に携わっていた経験から、庭と建築が美しく調和した景観づくりを得意とする。

「街路樹や山の稜線、季節ごとの風の流れなど、建築家が気づけない点もあるので、できるだけ早い段階で計画に参加させていただいています」

 作庭時には、その場の光や土の感触を感じ、建築との対話から、暮らす人々の生活イメージを膨らます。

「特に、キッチンからの眺め(2・3)は重要です。毎日立つ場所だし、花や緑を感じながら料理ができたら、きっと美味しい料理に仕上がります(笑)」

 暮らしの一部として植物を取り入れる庭間(1)も評判だ。

「庭間とは、庭を間取りの延長で考えるアウターリビングのこと。オープンエアだから安心して人を招き、家族や仲間と心地よく過ごすことができます」

 その逆の発想として室内環境を屋外に近づけるという試みも。

「弊社の社屋(4)では、実験的にあえて日の当たらない室内に中庭をつくりました。環境的に手間がかかる一方で、周囲の緑がそのまま部屋に入り込んだような庭は、暮らしに近い分より愛着も増します」

 根底にあるのは「そこで過ごす人が日常の中で感じられる心地よさ、心の豊かさを、庭を通じてどうすれば感じてもらえるか」だという。

 その土地の文化や歴史、特有の場所性、風土性を取り込む“原風景”の再生にも力を注ぐ。

 日本建築美術工芸協会賞を受賞した三井ガーデンホテル京都新町別邸(5)作庭時は「はんなりという言葉にあるような独特の華やかな風情が京都の街や建築・庭に色濃く反映されています。

 単なる和風や伝統にとどまらない、新しいエネルギーを呼び込む華やかさを、現代の京都らしさとして捉え表現。

 日本の原風景が凝縮され、ありのままの自然が京都に復元されているという感動を感じていただければ」

荻野寿也(おぎの としや)さん

1999年自宅アトリエが、第10回みどりの景観賞を受賞。以降、独学で造園を学ぶ。2006年設計部門として荻野寿也景観設計を設立。原風景再生をテーマに造園設計・施工を手がける。著書『荻野寿也の「美しい住まいの緑」85のレシピ』(エクスナレッジ)が好評発売中。

Feature

庭師という美学

Text=Mayumi Amano
Photographs=Toshiya Ogino