幾多の困難を超えて美術品を守り、財を投じた先人たちの篤い想いは各地の美術館に作品とともに引き継がれ、今日も新しい物語を紡ぎ続ける。

 各地の想いを引き継ぐ美術館を7館紹介。


◆ポーラ美術館|Pola Museum of Art

 自身の収集について語ることのなかった一人の男性が、言葉の代わりに遺していったもの。

 それは、緑あふれる森の中、多彩なコレクションが創り出す美の世界だった。

美しく華やかな色彩の 名作の世界に浸る

 箱根の深い森の奥へと誘うように、ガラス張りの美しい建物が佇む。

 日本と西洋の近代絵画や彫刻から陶磁、ガラス工芸、化粧道具まで、1万点もの多彩な収蔵品を誇るポーラ美術館だ。

 コレクションのほとんどは、ポーラ創業家2代目の鈴木常司が40数年間にわたって収集を続けたもの。

 だが、鈴木には非常にシャイな面があり、収集について多くを語らなかったという。

 「西洋文化に対する憧れから個人の趣味としてコレクションが始まり、化粧品メーカーであるポーラの経営とも深く関わりながら大きくなっていったのではないでしょうか。

 外面の美を創り出す化粧品に対して、美術は内面の美を磨くものであり、同時に本物の美を表わすものであるという思いが窺われます」(学芸課長・岩﨑余帆子さん)

 しかし、その作品をより多くの人に鑑賞してもらいたいと願った鈴木は、美術館建設が着工した2000年に急逝。開館はその2年後だった。

「私たちは残された建築や作品と対話し、鈴木の目指したものを受け継ぐしかありません。

 コレクションの魅力をより広く伝えながら、常に新しい美術の見方、感じ方の可能性を追求し、進化し続けていきたいと考えています」(岩﨑さん)

 鈴木のコレクションは、美しく華やかな色彩、仕上がりの質の高さと品格が特徴だと岩﨑さん。

 心ゆくまでその世界に浸り、疲れたら遊歩道を散策して木々のそよぎに耳を傾ける。そんな豊かな時間が、箱根の森で待っている。

ポーラ美術館

所在地 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
電話番号 0460-84-2111
開館時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)
料金 1,800円
休館日 無休(展示替え期間の臨時休館あり)
https://www.polamuseum.or.jp/
※2020年9月1日~9月3日まで、展示替えのため休館を予定。入場制限等を行う場合あり。最新情報はホームページをご覧ください

Feature

個性的なコレクションを収蔵
日本全国の、物語を紡ぐ美術館

Text=Yuko Harigae(Giraffe)
Cooperation=Pola Museum of Art