◆「冬のリヴィエラ」(1982年)

オリジナルとは別の英詞を付した上で作曲者の大滝詠一自らがこの曲をカヴァーした「夏のリビエラ」は、2016年3月にリリースされるアルバム『DEBUT AGAIN』に収録される。

 「冬のリヴィエラ」は、松本隆作詞、大滝詠一作曲。つまり、はっぴいえんどの盟友2人による作品である。つまり、松田聖子の1981年のヒット曲「風立ちぬ」と同じ組み合わせ。

 特筆すべきは、まず、リヴィエラという言葉の語感にある。このレコードがリリースされた1982年当時、リヴィエラという地名を知る日本人は相当少数だっただろう(そしてこの曲なかりせば、2016年の今も、さほど知名度は変わらなかったはず)。

 それを、メジャーもメジャー、押しも押されもせぬ演歌の第一人者である森進一のシングルのサビおよびタイトルに平然と投げ込んでくる。まさに蛮勇。

 しかし、リヴィエラがどこにあるかなど見当がつかずとも、大人の男女のハードボイルドな別れの物語を描いた歌詞を耳にすれば、にぎやかな夏とはうって変わってうら寂しい表情を見せるリゾートの様子が目に浮かぶ。むしろ、耳慣れぬリヴィエラという地名の醸し出すエキゾティシズムこそが、異郷における孤独を増幅させるのだ。

 松本隆という作家は時折、確信犯的にこういう試みを行う。例えば、松田聖子の「白いパラソル」(作曲/財津和夫)と大滝詠一の「君は天然色」(作曲/大滝詠一)。同じ81年に発表されたこの2曲には、いずれも“ディンギー”なる言葉が登場する。

 即物的に説明するなら、風だけを動力源とする小型ヨットのことなのだが、あえて未知の言葉が差し出されたことで、トロピカルな風景に対する想像力がかき立てられる。しかも、“風を切るディンギー”、“渚を滑るディンギー”という歌詞の文脈から、ヨットのようなものであることは容易に伝わるのだから、作詞術としては憎いほどに巧みだ。

 蛇足だが、かつて、週刊少年ジャンプの投稿欄「ジャンプ放送局」に、この曲名をもじった「河豚の右エラ」というネタが掲載されていてとても感心したことを付け加えておく。

2016.02.03(水)
文・撮影=ヤング