キム・ナムギルが非情な刑事を演じた『無頼漢』

夏のリヴィエラの光の中、キム・ナムギルを撮影しているのはカメラマンの若山和子さん。フランス語堪能です。

 アジア作品では「ある視点」部門(メインコンペとは別に、比較的若手やジャンル映画にスポットを当ててきた部門だが、最近はベテラン作品もこちらに回るようになってきた)に選出された韓国の『無頼漢 渇いた罪』も、10月に日本で観ることができる。

 捜査のためには女も騙す非情な刑事を、ドラマ「赤と黒」「サメ~愛の黙示録~」で人気のキム・ナムギルが演じている。ナムギルはカンヌは初めて。「みんなカンヌ、カンヌと騒ぎすぎだと思っていたけど、来てみたらやっぱりいいところですねえ」と海を見ながら笑顔、笑顔。

左:キム・ナムギルは取材中「もっと話していてもいいですよ」と言うくらい、リラックス。
右:チョン・ドヨンは話し方もおっとりしていて、本当に余裕がある感じ。

 ハードな役が多いナムギルだが、画面で見せる陰りはちっともない。「韓国の外に一歩出ると人目がなくなるので、気が楽なのもありますが(笑)、海はきれいだし、世界一の映画のお祭りなので、本当に来てよかった」と語っていた。

 ナムギルに騙される女を演じたチョン・ドヨンは、『シークレット・サンシャイン』でカンヌの女優賞を獲得し、審査員経験もあるだけに、ちょっと余裕の表情。4度目のカンヌだった彼女は今回コンペじゃないので、気が楽だったそう。

「ある視点」部門の授賞式。左から3番目が黒沢清、2人おいてこの部門の審査委員長を務めたイザベラ・ロッセリーニ。今年のカンヌのアイコン、イングリッド・バーグマンの娘です。

 その「ある視点」部門で監督賞を受賞した黒沢清監督の『岸辺の旅』も10月公開。こちらも別の機会に紹介したいと思うけど、みんなずっと笑顔で楽しそうだった。

 総じて言えるのは、監督も俳優もカンヌでは時間に余裕がないけれど、自然と笑顔になっていて、日本で会うときよりも、近しく感じられる。南仏リヴィエラの青い海を見ながら取材を受けていると、オープンな気持ちになってくるんだろう。冬のリヴィエラより、夏のリヴィエラのほうが、やっぱりいいわな。

石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。ときおり作家の長嶋有氏と共にトークイベント『映画ホニャララ はみだし有とアヤ』を開催している。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人。「もっと笑いを!」がモットー。