神様に「チャンスだぞ」と言われた気がした

――所属していた会社の陸上部が廃部になり、それを機に、陸上選手から俳優へ転身されたわけですが、芸能界への憧れはそれ以前からあったのでしょうか。

 東京に出てくるまでは、テレビの世界や芸能界で仕事をすることは現実離れしているというか、将来の夢として具体的に描けるものではなかったんです。大学に入り、上京してくると、街で芸能人を見かけることもあったり、雑誌の読者モデルとして街で写真を撮られたり、芸能プロダクションの方に名刺を渡されたりといったことがあって、芸能界が意外と身近なものに感じたこともありました。でも、当時は陸上一筋な生活をしていたし、家族や恩師の応援や想いもあるので、その道に進むことは考えていなく、ぼんやりと次の人生ではこういう道もあるんだなぐらいには思っていました。いま思えばそれが最初に憧れた瞬間だったのかもしれません。

――24歳で心機一転、芸能界という道に進むことに対しての葛藤のようなものはあったのでしょうか。

 陸上選手としての僕は、一年の1/3ぐらい走れないほど、とてもケガの多い選手だったんです。社会人一年目のときは、自分がほとんど走れない日々を過ごす間に、同期がどんどん強くなっていく姿を見て悔しい思いをしていました。そんなとき、自分の弱い心が出てきてしまって。陸上選手に向いていないんじゃないかとか、三十過ぎになって走れなくなったときにどうするのかとか、そういったことばかり考えていました。陸上選手としては体力的なこともあり、いずれは限界が来る。もし陸上やってなかったら……と考えたときに、芸能界への憧れみたいなものが出てきたんです。これから芸能界に入っても年齢的にもマイナスからのスタートにはなりますが、この仕事は誰かにやめろって言われることも、体力の限界みたいなものもないし、死ぬまでできる仕事だと思ったんです。そんなときにチームの廃部が決まったので、神様に「お前、これはチャンスだぞ」と、ある意味言われた気がして、俳優を目指すことを決心したんです。

――なぜ、俳優だったのでしょうか。

 お芝居というものは、自分の経験してきた人生が経験にも反映させられる、僕が生きてきた数十年の人生でもできることもあるのかもしれない、と思ったんです。この世界を目指したときに、いちばん目指しやすかったのかもしれません。

2015.03.20(金)
文=くれい響
撮影=中井菜央