韓国インディーズ界の雄が奈良で映画を撮影

閉会式のレッドカーペットでの、チャン・ゴンジェ監督(左端)、岩瀬亮(左から2人目)ら『ひと夏のファンタジア』チーム。

 一方、韓国人監督が日本で撮影を行った作品も釜山で注目を集めた。

 『眠れない夜』など韓国インディーズ界の雄チャン・ゴンジェ監督の『ひと夏のファンタジア』は、河瀬直美プロデュースのもと全編奈良で撮影され、『イエローキッド』などの日本人俳優、岩瀬亮がメインキャストの一人として出演している。

 映画は韓国からロケハンのため奈良を訪れた映画監督と助手が地元の人々と出会う第一部と、そこで監督が夢見た映画が展開する第二部という、ユニークなスタイル。釜山では見事に韓国監督組合賞を受賞した。岩瀬は第一部では観光課の職員、第二部では韓国人旅行者と恋に落ちる農家の青年の二役を演じている。

 チャン・ゴンジェ監督と岩瀬とは、3年前に韓国の全州映画祭で意気投合し、以来、お互いの家を行き来するほどの仲に。『自由が丘で』も『ひと夏のファンタジア』も、まず企画ありきではなく、監督と俳優の交流から生まれた映画であり、さらにどちらも即興性を重視している映画なのも面白い。

『さよなら歌舞伎町』の南果歩(左)、廣木隆一監督(中央)、イ・ウンウ(右)は開幕式のレッドカーペットを歩いた。

 また、アジア映画の窓部門に出品された廣木隆一監督の『さよなら歌舞伎町』には、韓国から女優イ・ウンウ(イ・ウヌ)と、ボーカルユニット、5tion(オーション)のロイが参加。

 イ・ウンウはキム・ギドクの『メビウス』では夫の男性器を切り取る毒々しいヒロインを怪演していたが、今回は心やさしい風俗嬢を演じて、まったく別人にしか見えない。さらに釜山のパーティ会場で会った彼女はほぼノーメイクで、まるで学生のような初々しさ(ちなみに韓国の学生は、日本に比べ化粧の薄い子が多い)。いくつもの顔を持っているなあ、と感心した。

(左から)『真夜中の五分前』の三浦春馬、リウ・シーシー、ジョセフ・チャン、行定勲監督。釜山では三浦春馬の人気もすごかった。

 国というより、監督それぞれの個性の違いが作品を成立させているので、アジアという区切りは意味をなさないかもしれない。それでも“近くて遠い”と言われる国に住む人々が、“近くて近い”になる、そんな一瞬を切り取っているような映画たちが、釜山という港には集まってくるようだ。

石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。ときおり作家の長嶋有氏と共にトークイベント『映画ホニャララ はみだし有とアヤ』を開催している。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人。「もっと笑いを!」がモットー。