【KEY WORD:ヤンキー】

「ヤンキー」ということばが最近、脚光を浴びています。アメリカ人のヤンキーではなく、地方に住んでてちょっと不良っぽい若者を指すヤンキー。火付け役は、博報堂の原田曜平さんが書かれた『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)という本です。昔の暴走族やヤクザ予備軍のような怖いヤンキーではなく、地元が大好きで近所の仲間たちとダラダラ過ごしたいという新しいヤンキー層が増えていることを徹底した調査で調べ上げ、そういう新ヤンキー像を「マイルドヤンキー」と呼んでいるんですね。

 ヤンキーに代表される地方の新しい若者文化を論じるのは、21世紀になってから現れてきた傾向です。たぶん最初にヤンキー論を取りあげたのは、五十嵐太郎さんの『ヤンキー文化論序説』。2009年の本です。さらにさかのぼれば、2005年の三浦展さんのベストセラー『下流社会』で描かれた、郊外で気楽に過ごしたい若者たち「ジモティ」がこの新しい文化を最初に描写したことばといえるでしょうね。

 なんで21世紀にもなって、ヤンキー論なんてものが流行っているのでしょうか。

 私はこの背景には、都市の文化と郊外の文化が分離していっているということがあると考えています。

東京の文化が地方で受け入れられなくなっている!?

 たとえばファッションを考えてみて下さい。東京の人はどちらかというと単色系のミニマルなデザインの服を着ていることが多いけれど、地方や郊外はどっちかといえば装飾の多い賑やかな服。お店で言えば、無印良品と「しまむら」の違いといえばわかりやすいですね。しまむらが東京都心に店舗を出すようになったのは、ごく最近のことです。ほかにも地方では、音楽で言えばEXILEやMr.Childrenがよく好まれ、雑誌は宝島社や「小悪魔ageha」「I LOVE mama」などのインフォレスト系、買い物はイオンのショッピングモール。

 昔は、若者文化は東京西部エリアで「業界人」(今では謎の用語ですが)によって作られ、それが雑誌を経由して地方に広まっていきました。東京で流行ったものが、半年遅れで地方で流行る、というようなパターンが多かったんです。でもいまは雑誌の影響力が薄れて、ネットで情報も共有できるようになって、東京の文化が地方であまり受け入れられなくなってしまっています。その代わりに地方には独自の郊外文化が育ち、それが広く受け入れられるようになりました。東京の雑誌が売れなくなっている原因のひとつはこのあたりにあるのでしょう。

 人口比を考えれば、東京的な都市文化の中で暮らしている人よりも、地方の郊外文化のほうがずっと市場は大きいといえます。だからこれからもこの新しい「ヤンキー」像が注目され、さまざまな商品やサービス、文化の新しい市場が盛りあがってくることが予想できます。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『本当に使えるウェブサイトのすごい仕組み』(日経ビジネス人文庫)、『グーグル Google』(文春新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2014.03.14(金)
文=佐々木俊尚