この記事の連載

リアルとリアリティの違いを本当に理解しているか?

――その露伴を演じる上で、どんなところにやりがいを感じましたか?

 彼が、多くの日本人からしたら異端であることじゃないでしょうか。特殊能力ということではなく、誰に何を言われようと自分の好奇心の赴くままに行動し、自分が起こしたトラブルのケリは自分でつける。好奇心に対する代償的なものをちゃんと覚悟して、ただそこから先が自分の責任の範疇ではないと思ったら手放してしまう。とても自由で、柔軟で、発想力があって、想像力ももちろんある人物です。

 彼が創作について語るときに、しっかりと「リアリティ」と言っているところが非常に好きです。つまり彼が欲しいのは、「リアル」ではなく「本当っぽさ」。そのために彼は、自分の想像を通して物を見ていく。

 自分の肉体を通して岸辺露伴を演じる上で、自分の興味が向いたことに対してなりふり構わず掘っていくという彼の能力は、自分もそうありたいと思うが故にとても魅力的に映りましたし、そう見えるお芝居をしたいなと思いながら演じました。

――その「本当っぽさ」というものは、お芝居においても鍵となるものですよね。例えば、殺人者を演じるために、殺人の経験は必要ないわけで。

 そうなんです。その「本当っぽさ」というものは、いかに自分を騙せるかということだと思います。僕は正直に言うと、演じるときに見ているお客さんのことを考えていません。もしも本当の殺人者が見たいのであれば、お客さんはドキュメンタリーを見ると思うんです。

 僕らはあくまで娯楽作品を作っているので、役を自分の中にいかに落とし込み、本当っぽくやっていくかということは、誰のためでもなく自分のためなんです。自分が疑似体験をするために、役を道具として使っている。露伴は最初からそれをわかっているから、「リアリティが必要なんだ」と言っている。「リアルが必要」とは言っていない。そこを大きく勘違いしてほしくないと思っています。

 そもそもが作り物なので、一つ一つの役柄を本当っぽくすれば、突拍子もないファンタジーであっても、そこに真実を見いだせるわけです。だから僕は、こういう作品で岸辺露伴という役を演じられることに、非常に喜びを感じています。

2023.05.25(木)
文=須永貴子
撮影=三宅史郎
ヘアメイク=田中真維(MARVEE)
スタイリスト=秋山貴紀[A Inc.]