江戸時代のライフスタイルに発見があった

――恋模様はチャーミングですが、一方で、中次と矢亮(池松壮亮)の糞尿を売り買いする仕事の過酷さもしっかりと描かれていました。

 結構リアルでしたよね(笑)。それはもう、原田さんがすごくこだわって作っていたので。ボトボト落ちていく感じの配合が特に難しかったらしいです。モノクロの映像でよかったと思います。

 ロッテルダム映画祭で上映された時には、あまりに音も映像もリアルなので、後ろの席の方がえずいていたと聞きました(笑)。

――寛一郎さんと池松壮亮さんとの共演はいかがでしたか?

 年が近いのですごく刺激になりました。目の前で起こっていることへの反応をとても大事にされるし、瞬発力もある。そして江戸時代の人じゃないのに、ちゃんと説得力のあるお芝居をされるんです。見ていてすごく勉強になったし、やっぱりすごいなと思いましたね。

――同世代の俳優として、連帯感があったりは?

 それはなかったかも(笑)。仲が悪いわけじゃないけれど、みんなで集まってつるんだりすることもないですし。二人のプライベートも知らないので。それぞれが個々で立っている。そんな世代なのかもしれません。

――寛一郎さんの父である佐藤浩市さんは、おきくの父役として出演されています。

 「親子だー!」って思いましたね(笑)。かんちゃん(寛一郎)に「恥ずかしくないの?」と聞いたら「別にー」って言ってました。自分だったら親とお芝居するなんて想像できないですよね。

――この映画の背景には、人間の排泄物さえも大切に肥料として使っていた、江戸時代の循環型社会が教えてくれるメッセージが込められているとか。

 まず糞尿を売り買いすることが職業があることを知らなかったので、すごくびっくりしました。限られたものを大切に循環させる江戸時代のライフスタイルには発見があったし、人が嫌がる仕事をしながらもたくましく生きる姿を見て、自分が恵まれていることを改めて感じました。

――江戸時代と今との、人との関わり方の違いについてはいかがでしたか?

 今はやっとマスクを外せるようになりましたけど、子供たちの中には、どうやって表情を作ればいいかわからない子がいたり、コロナ禍以前から人と直接コミュニケーションを取ることが難しくなっていたようにも感じます。

 でも映画で描かれている長屋に暮らす人たちは、直接会いに行ったり、声を掛け合ったり、関係性がすごく濃いと思いました。

――にぎやかな長屋暮らしについては、どう思いますか?

 私は自分のプライベートを大事にしたいので、遠慮したいかも。だって嫌じゃないですか。大雨で他の人のウンチが流れてきたりするんですよ(笑)。冬は寒そうですしね。すみません、意外に現代っ子なんです。

2023.04.24(月)
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=梅山弘子(KiKi inc.)
ヘアメイク=新井克英(e.a.t...)