CREAトラベラー取材班がラナイ島で訪れた「ラナイ・キャット・サンクチュアリ」は、2,300平米の敷地に700匹の猫たちが保護されて平和に暮らすシェルター。

 穏やかな気候の島で守られる猫たちの楽園は、猫好きの人間にとっても、至福のサンクチュアリでした。


「パイナップル・アイランド」からSDGsの島へ

 ラナイ島といわれても、脳内に具体的なイメージを浮かべることができない読者も多いことだろう。日本においては、まだまだ一般的な知名度も低いはずだ。

 この島は、ハワイ諸島を構成する島の一つ。人口は、わずか3,000人ほど。「パイナップル・アイランド」なる愛称で呼ばれるが、その理由は、かつてフルーツ産業の巨魁であるドール社が島の土地すべてを所有していたことにある。

 実はこの島、ハワイのパブリックイメージを刷新する景観に満ちている。針葉樹のノーフォーク松が整然と立ち並ぶさまは、南国というより北欧の避暑地を思わせる。海抜の高いエリアに赴けば、気候も涼しく、ハワイにいることを忘れてしまうほど。

 2012年、ラナイ島の面積の約97%は、世界的IT企業、オラクルの創業者であるラリー・エリソン氏の手に渡り、現在へと至る。社会活動家でもある彼のリーダーシップの下、この島は、SDGsに対して意識的な方向へとハンドルを切る。この地において彼が所有する「フォーシーズンズ」の2軒のホテルでは、環境への配慮が貫かれている。

稀少な鳥が襲われる……しかし猫を駆除でなく保護!

 そんなユニークな島でぜひ訪れたいのが、「ラナイ・キャット・サンクチュアリ」だ。ここでは、2,300㎡にもおよぶ広大な敷地に、おおよそ700頭の猫が暮らしている。

 そのよって来たるところを理解するためには、ラナイ島と猫の関係について説く必要があるだろう。

 その昔、この島は、野良猫の多い島として知られていた。野生化した猫たちは、食うに困り、やがて野鳥を狙い始める。ところが、ラナイ島は、ハワイ固有の貴重な鳥類が生を営む土地であった。しかも、この地に定住するオナガミズナギドリの雛は飛ぶことができず、ゆえに、猫たちの格好の餌食と化してしまった。

 その脅威を憂慮した役所は、野良猫の駆除に乗り出した。無理もない判断かもしれないが、その状況に胸を痛めたのが、キャシー・キャロルさん。彼女は、猫たちに不妊・去勢手術を施した上で、シェルターに保護するという活動を始めたのだ。そして、2009年にオープンしたのがこの施設となる。ここでは、保護猫の里親も募集している。野良猫が裕福な家庭に迎えられるというシンデレラストーリーも実現しているという。

2023.02.22(水)
文=下井草 秀
撮影=橋本 篤
コーディネート=工藤まや