「書いているときが一番幸せ! もっと小説がうまくなりたい」

 それにしても、仕事量から見るに、連載や単発を並行して執筆することも多いはずの新川さん。どうやって頭を切り替えているのだろう。

「確かに、1ヶ月の間に複数の作品を書いたり、1日の中で並列で何作品か書いたりすることが増えました。なので、作品別にオリジナルトラックを作って、それを聴くことで、作者自身がその世界を思い出すようにしているんです。Aという媒体に書く作品を書く前に、とりあえずA用のトラックからオープニングソングを聴いて、『そうだ。主人公はこういう気持ちだったんだ』という感じで続きを書き始める。

 この『令和その他の~』の執筆中は、「ずっと真夜中でいいのに。」をひたすら聞いていました。『ぐされ』というアルバムの「正しくなれない」という曲は特に惹かれましたね。『競争の番人』はパキッとした話が多いので、「緑黄色野菜」の「Mela!(メラ)」を聞いてテンション上げていましたね。

 いまイギリスに住んでいることもあり、日本の雰囲気とかを読み間違えるといけないなと思って、日本の邦楽の人気ランキングはわりとチェックしているんです。『この曲って私が書こうとしていたあのことと同じことを歌っている!』とか感じると、プレイリストに入れます」

 リーガルミステリー、公正取引委員会、先祖を調べるという風変わりな探偵業、SF。デビュー以来、舞台に据えてきた世界は実に広い。最終的には、こういうものを書いてみたいなという大目標などはあるのだろうか。

「それが大目標どころか、目標らしい目標もなくて(笑)。ただ、自分の興味の範囲も広いので、あれもこれも書きたくて、アイデアは結構思いつくんですね。それで、その場に居合わせた編集者さんと熱い約束を交わすわけです。それを同時多発的にやってしまうので、スケジュールがパンクして締切が守れないのが目下の悩み。

 作家になってみてよりはっきりわかったのが、作家以外の仕事はできない、したくない、ですから、もし締切を守れなさ過ぎて出版界から干されたら、もう即死ですよ、生き倒れます! そもそも、私は書いているときが幸せなんですね。人生レベルのミッションとして、もっと小説がうまくなりたい、ずっと書いていきたいと、それは強く願っています」

 今後も新連載や刊行予定が目白押し。ざっとうかがっただけで、2023年内に、縁切リ寺の隣で離婚専門弁護事務所を開く女性弁護士モノ、女性国会議員モノ、信用できない語り手ミステリーの出版が控えている。

「それと、司法試験受験のお話が新聞掲載で始まります。『先祖探偵』の続編と、剣持麗子シリーズも書く約束をしていますし、この先もしばらくバタバタしそうですが、がんばります」

 デビューしてまだ2年強、新人離れしたご本人は頼もしくもこう締めた。

新川帆立(しんかわ・ほたて)

1991年生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2021年に『元彼の遺言状』でデビュー。他の著書に『剣持麗子のワンナイト推理』『競争の番人』『先祖探偵』などがある。

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2023.01.28(土)
文=三浦天紗子
写真=佐藤亘