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●人間って、もっとダサいし、へっぽこじゃん

――近年の作品では、プレイボーイなイケメンキャラが増えていますが、それについては?

 単に見た目からだと思うんですが、もともとは沖田修一監督が喜んで、僕にそういうキャラを振ってくださっていたんです。『横道世之介』にもサマーセーターに白い短パン姿という、昔の阿部寛さんみたいなファッションで一瞬出ていますし(笑)。その後も、今泉力哉監督の『愛がなんだ』だったり、濱口竜介監督の『偶然と想像』だったり、いろんな出会いが積み重なった結果、こんなことになっているんだと思います。

――そのほか、ドラマ「お耳に合いましたら。」のヘタレ王子や映画『愛なのに』の床下手キャラなど、どこかダサい部分に関しては、お笑い好きな中島さんが楽しんで演じられているように思えます。

 楽しいですねぇ(笑)。僕自身、マッチョな男らしさみたいなものがそんな好きじゃないうえ、「人間って、もっとダサいし、へっぽこじゃん!」みたいな考えがあって、それによって自分自身も救われてきたんです。立川談志師匠は「落語は人間の業の肯定」ということを仰られているんですが、それと同じことを僕は映画やドラマや舞台にも感じているんです。人間の醜い部分が表現されているから、安心したり共感したりできるんじゃないかと。そういえば、『浅草キッド』で演芸の世界をチラッと見ることができたことも楽しかったですね。

●ヒロインと恋に落ちる映画監督役を演じた『よだかの片想い』

――最新出演映画『よだかの片想い』では松井玲奈さん演じるヒロイン・アイコが恋する映画監督・飛坂を演じられています。映画監督としての役作りについては?

 「映画監督だから、このように演じてみよう」というものは一切なくて、ただ彼女からの愛を得たい一人の男を演じたつもりです。映画監督らしさについては、映画を撮影しているシーンや映画について語るセリフなどから自ずと見えてくると思いましたから。安川有果監督と話し合いつつ、特に注意した点は、飛坂はこれまでもずっとモテてきた人という雰囲気を出すことでした。それは衣装だったり、アイコに対する些細な態度だったり、安川監督からの演出もあり、要所要所で出していくことができたと思います。

――本作は、中島さんにとってどんな一作になったと思いますか?

 キャリア的に見ても、『グッド・ストライプス』以来となる大きな役で出していただける映画ということは自分にとって特別ですし、できるだけたくさんの人に観ていただきたいという責任感のようなものも感じています。また、近年演じてきた一連の人物像をより分かりやすくカタチにできたことも、どこか幸運に感じています。

●「どういう人かよく分からない」と思われたい

――今後の目標・展望について教えてください。

 プレイボーイなり、へっぽこなり、何らかのイメージを持たれているのは、とても有り難いことだと思います。その一方で、全然違うことをやりたいという気持ちもあります。「この人、どういう人かよく分からない」と思われたいですし、僕自身が面白いと思う監督さんと一緒に仕事ができるような俳優になりたいです。この人のようになりたいと思う俳優はいないんですが、アダム・ドライバーが僕の好きな監督とばかり組んでいることが、なんか悔しいですし、気になってしょうがありませんね(笑)。

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中島 歩(なかじま・あゆむ)

1988年10月7日生まれ。宮城県出身。モデル活動後、2013年に舞台「黒蜥蜴」で俳優デビュー。14年、NHK連続テレビ小説「花子とアン」に出演するほか、15年公開の初主演映画『グッド・ストライプス』では、「第7回TAMA映画賞」最優秀新進男優賞を受賞。22年には『いとみち』『偶然と想像』で「第35回高崎映画祭」最優秀助演俳優賞を受賞した。

映画『よだかの片想い』

顔の左側にアザがあるアイコ(松井玲奈)は、幼い頃から畏怖やからかいの対象にされてきたことで、恋や遊びを諦め、大学院でも研究ひと筋の日々を送っていた。そんな彼女の生活が取材を受けたことを機に一変。監督の飛坂(中島 歩)によって、彼女の物語が映画化されることになるが、アイコは彼の熱意や人柄に惹かれていく。
©島本理生/集英社 ©2021映画「よだかの片想い」製作委員会
9月16日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国公開
https://notheroinemovies.com/yodaka/

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文=くれい響
写真=平松市聖