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翻訳の壁をひらりとかわして

 とはいえ、『わたおぼ』制作時はこんな苦労もあった。

「昔は感覚的に、キャラクターにセリフを言わせていましたが、縦スクでは一瞬で頭に入ってくるセリフ回しや間の取り方を心がけました。日本特有の言い回しや流行り言葉も極力使わないようにしています。最近、昔の自分のマンガを読んでみたら、往年の名俳優の名前を使ったギャグがあったのですが、それだとまず他言語に置き換えることができない。縦スクを始めた頃は、固有名詞ギャグとかがないと、内容が薄くなるというか、読者が物足りなく思うのではと思っていましたが、なきゃないですっきりしていいんですよね。これは縦スクをやってみて学んだことのひとつです」

 世界を意識する一方で、「時代の気分を紙に落とし込むのがマンガ」とも語る東村さん。そのために心掛けていることは?

「私は今年で47歳になりますが、同世代の編集者や知人がよくお酒の場で昔の話をするんです。そして、若い人が好きだという音楽や映画に対して、『あれって〇〇の焼き直しだよね』みたいな発言をしがちで。もちろん昔のカルチャーは私を構成している要素ですし、今でも好きなものは好きですが、『あいみょんが好き』って子に、『昔はりりィって歌手がいてね』と言ってもしょうがない。私もつい言っちゃうんですけど(笑)。それを止めたいなと思って、ある時から今流行っているものを観たり聴いたりしようと決めたんです。そうしたら、圧倒的に今のものの方がいいし、若い子と共通の話題で盛り上がれる。いいことづくめなんです。

 今、講談社漫画賞の審査員をやっているので、マンガも流行っているものはひと通り読んでいますが、最近のマンガって本当にすごい。特に少女マンガ。みんなどうしてこんなに絵が上手いの? どうしてこんなに男の子がカッコいいの!? と思います」

東村アキコ(ひがしむら・あきこ)

宮崎県生まれ。1999年デビュー。2010年に『海月姫』で講談社漫画賞、15年に『かくかくしかじか』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。『東京タラレバ娘』ほか、ヒット作多数。第47回アングレーム国際漫画フェスティバルにて『雪花の虎』がヤングアダルト賞受賞。

次の話を読む東村アキコの現在地【後篇】 NFTは現代の浮世絵! 「描くのに半年以上かけています」

2022.09.19(月)
Text=Mao Yamawaki
Photographs=Wataru Sato

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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