60年に及ぶ草間のキャリアを紹介

Flame(Llama)1992 (C) Yayoi Kusama Courtesy of Ota Fine Arts

 今回の展覧会は、60年に及ぶ草間のキャリアを複数のパートに分けて紹介している。まず最初は終戦から1950年代にかけての初期の作品。この時期の草間は、表現上のさまざまな実験を試みながら自分のスタイルを模索している。後に重要なモチーフとなる水玉模様がすでに画面に現れているのも興味深い。

 続いてはニューヨーク時代。1957年に渡米した草間は、1973年に帰国するまでこの都市を拠点に活動を続けた。細かな網状のパターンでキャンバスを覆い尽くす「インフィニティ・ネット」の連作や無数の男根状のオブジェを集積されたソフト・スカルプチャーなど、独創的な作品を発表。国際的な現代アートの中心地で高い評価を得た。

Self-Obliteration1967 (C) Yayoi Kusama Courtesy of Ota Fine Arts, Photograph by Harrie Verstappen

 またこの時期に草間が手掛けたパフォーマンスやハプニングについても、多くの資料を展示。60年代のカウンターカルチャーの影響を色濃く感じさせる屋外パフォーマンスの作品は、アートを美術館やギャラリーから日常の領域へと拡張していくものだった。この種の試みは今日では珍しくないが、当時は理解者も少なかった。草間はひとりで時代の先端を走っていたのだ。 

 帰国後から現在に至るまでの活動は3つのパートで紹介。1929年生まれの草間は現在82歳。しかしその旺盛な制作意欲はまったく衰えていない。今回の回顧展では、2009年から10年にかけて制作された100点の連作ペインティングが会場ごとに内容を変えながら展示される。さらに鏡を使って室内空間のイメージを無限に増殖させる「インフィニティ・ミラード・ルーム」の最新作も、この巡回展のために特別に制作された。

 展覧会全体を貫いているのは、草間という個性が発散する強力なエネルギーだ。洗練とも枯淡とも無縁の境地で、今なお独自の道を進み続けるアーティスト。多くの人々が彼女のアートに魅せられるのは、このポジティヴな力のおかげだろう。

草間彌生展

2011年5月11日~9月12日
王立ソフィア王妃芸術センター(マドリッド)
http://www.museoreinasofia.es/index.html

2011年10月10日~2012年1月9日
ポンピドゥー・センター(パリ)
http://www.centrepompidou.fr/

2012年2月8日~5月20日
テート・モダン(ロンドン)
http://www.tate.org.uk/modern/

2012年6月~9月(日程未定)
ホイットニー美術館(ニューヨーク)
http://whitney.org/

Column

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2011.07.29(金)
text:Fumiko Suzuki