自然に還ることは、人間のDNAに刻まれた湧き出る欲求。だから、心が求めるままに、森の息吹、大地のエネルギーを感じる湯へ向かおう。

 北海道中南部の白老温泉に、2022年に開業した「界 ポロト」はシラカバやトドマツに囲まれた、自然と一体化できる宿。慌ただしい日常を離れ、心を解放する時間を約束してくれる。


原始の森に抱かれた、静かな湖畔ステイ

●界 ポロト[北海道/白老温泉]

モール温泉と湖が ひとつになるような錯覚 

 視界すべてに大自然が広がるような場所に行きたい。雄大で、空気が澄みきっていて、心ゆくまで温泉に身を任せられる所へ。そんな思いで向かったのは、北海道・ポロト湖畔の宿だ。

 南西部に位置する白老町の市街からすぐの場所にありながら、原始の自然休養林や湿原が周囲に広がるポロト湖。アイヌ語で「大きな沼」という意味をもつこの湖のほとりに今年開業したのが「界 ポロト」だ。全室レイクビューというロケーションに加えて、世界でも珍しいモール温泉が楽しめる。

 客室に足を踏み入れたとたん、大きな窓いっぱいにポロト湖の景色が広がる。湖面を渡る銀色のさざなみ、緑豊かな森林。まるでプライベートレイクのような贅沢さだ。湖面にせり出すとんがり屋根は、モール温泉の湯小屋「△湯」。太古の植物に由来する有機物が含まれ、“美肌の湯”ともいわれるモール温泉は、茶褐色の湯がとろりとなじむような肌触り。露天風呂の先はポロト湖へと続き、湖面を漂うような解放感が湧き上がってくる。

 夕食までの時間は、窓辺のソファでのんびりと。刻一刻と色合いを変えていく初夏の夕空が美しく、雲の流れにも北海道のダイナミズムを感じる。その豪快さは、夜の食事にも。北海道ならではの食材をふんだんに使った会席料理で、メインは、毛蟹や大きな帆立貝が丸ごと入ったブイヤベース仕立ての「毛蟹と帆立貝の醍醐鍋」。程よいサイズの地酒の飲み比べセットを合わせ、ひとりでじっくりと味わう。

2022.06.08(水)
Text=Yuko Harigae(Giraffe)
Photographs=Tetsuya Ito

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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