「いいものを撮って、みんなが笑顔で帰って寝られるように」

 中村倫也×ものづくり論インタビュー、後篇のトピックとなったのは「自意識のバランス」。悔しさやこだわりといった自分の内から湧き上がる感情を、中村はどのように整理して健全な創意工夫へとつなげているのか。

 彼の最新出演映画『ハケンアニメ!』の舞台裏トークと共に、紐解いてゆく。

» 【前篇から読む】「どんな結果でも“心中”できる仲間と」ミミックオクトパス俳優の創作論「

――いや、しかし先ほどのお話にもありましたが中村さんでも「悔しい」と思われるんですね。

 ありますよ。自分のことでもそうだし、周りやチームのことでも「悔しい」と思いますし。

――というのも、キャリアを重ねていくほどメンタルコントロールというか、感情の“処理”ができるようになってくる部分があると思うんです。とはいえ、役者は感情を表出する仕事でもあるから、プリミティブな感情に蓋をすることがマイナスにもなってしまう気がして。

 おっしゃるように人として歳も重ねて経験もしてきているので、色々な処理の仕方というのはきっと自分の中でハウツーができているし、飲み込みやすい咀嚼の仕方を覚えてはきていると思います。

 だけどやっぱり、家に帰って一人で「いや俺がこうすればよかったな」ってことはすごくあるし、自分自身の仕事でも「あそこうまくできなかったな」は絶えずあります。ただ、それに引っ張られて感情の起伏が乱れてしまったり、悪影響が出ないような処理の仕方はできるようになりました。

――それが安定したパフォーマンスにつながるわけですね。

 そうですね。いつまでも引きずっててもしょうがないし、監督が「OK」って言ったらOKだと思って、人のせいにしています。「OKって言ったもん!」って(笑)。ズルい仕事です。

 こだわる役者さんもいるし、それもプロ意識として一つの正解だと思いますが、「じゃあお前監督やれよ」って話になっちゃうんですよね(笑)。それがザッツアンサーというか、個人的には「そうじゃないんだからさ」って思っています。

2022.05.20(金)
文=SYO
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=Emiy
スタイリスト=小林 新(UM)