内面のマグマみたいなものをかみ砕いて、消化して、表現として出す

――李監督の作品のイメージとして、演者がさらけ出さなければいけない部分がすごくたくさんあるかと思います。プラス、文は原作の時点で線の細いキャラクターであり、身体作りが必要になる。実際に作品を拝見すると、松坂さんの瘦せ具合に驚かされます。「ハードルの高さ」は、そういった部分のご覚悟でしょうか?

 身体作りに関してはここまで痩せなければいけないわけではなかったのですが、僕の中でやっぱり必要なことだと感じて取り組みました。ただ、痩せるのは体重を落とせばいいだけなので僕にとってはそこまで大変ではないんです。それよりも難しかったのは、内面の役作りですね。

 自らが抱えている真実と、周りから見えている事実の違いの中で生きていた文が更紗と出会い、事件が起きてから15年の間どういう過ごし方をして、再会してからどのような心の変化が生まれたのか。ずっと更紗を想いながら生きていたからこそ、再会したときに文はどんなリアクションをするのだろう。そういった彼の心情の一つひとつを、深い霧の中、手探りでトンネルを掘っていくように探っていく日々でした。その部分が、僕史上最もハードルが高かったところです。

――原作の空白期間も、演じるうえでは纏わせなければいけないわけですもんね。

 そうなんです。

――いやしかし、「体を絞る」ことへの松坂さんのある種のハードルの低さが、すごいです。相当過酷だったと思うのですが……。

 かっこつけちゃうと、必要な作業の一つに過ぎないくらいの気持ちです。作品に入る前と撮影期間中になるべく食事制限をしていたので、体力的なきつさはもちろんあるのですが、それよりも内面のぐつぐつしたマグマみたいなものをずっと持ち続けて、それをかみ砕いて消化して表現として出していくところの方が、より難しいんですよね。

――「マネつぶ」(ファンクラブ会員限定コンテンツ)で、「1日にバナナ1・2本しか食べない日もあった」と拝読しましたが、そういった中でいかに集中力を維持したのでしょう?

 幸いなことに地方ロケだったので、家に帰って一旦集中力が切れちゃうといったことがなかったんです。集中できたのは、この環境だからこそだと感じます。

――撮影場所のマンションに寝泊まりもされたそうですね。

 はい。こっちとしては「やっていいのかな」といった感覚もあるのですが、李さんは「それ、普通でしょ?」くらいの感じで受け入れてくれる。だからこそ、「いいんですか? ありがとうございます!」といった感じで、こちらも気負わずに役作りに向き合えました。

2022.05.06(金)
文=SYO
撮影=三宅史郎
ヘアメイク=AZUMA@ M Rep By Mondo Artist
スタイリスト=丸山晃