“摂取する”という行為に対する前のめり感

――清水さんはこの現場で、食事のシーンを褒められたとか。

 (佐藤)二朗さんが「すっごい上手だね」と言ってくださいました(笑)。ありがたいです。

――山内の食べる姿から、彼の生きることに対する本能的な貪欲さを感じました。

 内面の“飢え”みたいなものが出たほうがいいと思いました。きれいに食べるヤツではないだろうと思ったので、クチャクチャするとかそういうマナー的なものではなくて、食事に限らず“摂取する”という行為に対する前のめりな感じを出していました。二朗さんに褒めていただいてからは、意識してお芝居するようになりました。

――食事シーンのテイクを何回も重ねるときに、おかずやご飯を食べる順番やタイミングをまったく変えずにセリフを言えるそうですね。

 テストのときに、「このタイミングでこの大きさの一口を入れるとセリフが話せなくなるからこの小さめのにしよう。二朗さんが喋ってる間ならこれイケるな」みたいな流れを掴んで、本番ではそれを繰り返しています。それを決めないと、「あ、セリフが言えない!」となってしまうので。

 自然さを取るなら無我夢中で食べたほうがいいと思うんですけど、セリフを言うためのご都合というものがありますし、それが芝居だと思ってるんで。食べる順番をきっちりと決めた上でどれだけ自然に食べられるかが勝負だと思って、そこは自分で考えてやりました。

――『さがす』に出演して、良かったなと思うことは?

 全部です! もしも自分以外の役者が山内役をやっていたら、めちゃめちゃ嫉妬したと思います。あまり思ったことがないんですけど、「他の役者にこの役を取られなくてよかった」という、めったに思わない感情を抱きました。

 そういう意味でも全部が特別です。この作品に出られてよかったなと心から思います。

――どのタイミングで「他の役者に取られなくてよかった」と思いましたか?

 現場ではどうやっていいものにするかに集中していたので、完成品を観たときだったと思います。もちろんこの映画が面白くなるのは知っていたんですけど、「さすがに面白すぎるんじゃない?」と思っちゃって。

 あと、今回の現場では、ひとつのシーンにじっくり時間をかけて、いろんなことを試行錯誤しながら撮っていくことの大切さに改めて気付かされました。映像作品はどうしても時間に追われることが多いので。それは仕方のないことなので、そこに文句を言っているわけではなく、こういう態勢で作品を作ることの素晴らしさを役者として実感しました。

2022.01.21(金)
文=須永貴子
撮影=鈴木七絵