「ドキュメンタリーみたいな一冊」に垣間見えるチャーミングさ

――全5幕の編成になっていますが、もともと1幕ずつの内容は大まかに決めていたんでしょうか?

 連載を始める前は、一応プロットがありました。1幕はこれ、2幕はこれ、というマップのようなものですかね。けど途中でコロナ禍になり、状況ががらっと変わってしまった。そんな中でも書かないといけない。であれば、連載を通して今の気持ちをこのまま書いてみようと思ったんです。今の空気感を全部詰め込む気持ちで、閉じ込めるつもりで書いてみようと途中から変えました。

 ですので、1~3幕は最初考えていたものと近く、4~5幕はまったく考えていなかった内容になりました。第4幕は、自分の人生にとっても、これまでのキャリアの中でも大きな壁だった時期です。ステイホームになり、ステージがなくなった時期には、「こういう壁をどうやって今まで乗り越えてきたっけ」と自分の人生を振り返ったりしたので、そのことが書かれています。

 その後、「じゃあ自分はどういう人生を送るんだろう、どういう道を選んでいくんだろう」と、これまでとこれからをふまえて考えたのが第5幕です。その上で『選択と奇跡』というタイトルをつけたので、自分的には本当にドキュメンタリーのような1冊になりました。

――それぞれの間には、幕間が設けられていますよね。本章とはちょっと違うタッチで、小林さんの人知れずチャーミングな一面も伝わりました。

 よかったです(笑)。自分で書いていて「……なんか、かっこつけている部分が多いな」と思ったんです。周りの人から言われる自分らしさって、そのかっこつけている部分だけじゃないところだったりするので、幕間では人間らしかったり、失敗したところを書こうかな、と。だから最近の失敗のおたまのこと、好きなクレープのことも、全部本当です。

――年齢を重ねると経験値も増え、自分のスタイルも確定し、ある種頑なになっていきがちだと思うんです。小林さんは逆で、変化を恐れず柔和になっていらっしゃるイメージですが、そのマインドのヒントも著書からわかる気がします。

 おっしゃる通り、自分を刷新することは、なかなか大変じゃないですか。面倒くさいですし、ある程度のところでいけるほうが労力がかからなくて済むと思うんです。

 自分としては、何となく立ちゆかなくなっている感覚がずっとあったんです。今思えば、変化に対して臆病であったから身を守っていたんだとわかるんですけど、当時は頑なに、普遍性のあるものが好きで。変わらないことやその強さみたいなものを信じていたし、ものすごく憧れていました。日々に追われていて、自分が変化を受け入れられなかったこともあります。

 コロナ禍になり改めて時間を取れたことが、これまでとこれからを考えるきっかけになりました。「残りの限りある時間を、どうやって生きていきたい?」と向き合ったときに、いろいろなものがクリアになっていった感覚がありました。

――変化を受け入れたり、視野が広がるようなタイミングが訪れたんですね。

 「柔和になっていった」とポジティブに受け取っていただいて、自分としてはすごく嬉しいです。反面、戸惑わせてしまった方もいると思いますし、これまでの自分とギャップがあると自分でも感じています。

 でも、変化は日々あるじゃないですか。世の中も変化すれば人も変化するし、状況も環境も変われば、付き合う人間も変わっていく。その中で、変化にオープンになって、多少何かあったとしてもそれを受け止めるぐらいでいたいなと。優先するのは日々健やかに笑顔で生きられたり、ものを楽しく前向きに作れることだと今は感じているんです。

2021.12.11(土)
文=赤山恭子
撮影=杉山拓也