阿佐ヶ谷姉妹のエッセイをドラマ化したNHKのよるドラ「阿佐ヶ谷姉妹の のほほんふたり暮らし」が、月曜夜の癒やしの時間になっています。週の始めから癒やしを求めてしまうなんて、どんだけ日々疲弊しているんだ……という感じですが、それが今の日本の現実なのかもしれません。

 「のほほん」とは本来、何も気にせずのんきにしていることを意味する言葉で、やや否定的・批判的なニュアンスのある言葉。もともとは、のんき=だらしなくみっともないという価値観だったものの、最近では好意的に「のほほん」が使われています。

 のんきでいられる状態は、忙しい現代人にとってはもはや幸福であり、娯楽なんですよね。大きな物語ではないものの、そういう贅沢な日常を、ぼーっと眺める良さがこのドラマにはあるんです。

「成功」ではなく「生活」がドラマになる阿佐ヶ谷姉妹

 本作は疑似姉妹のお笑い芸人・阿佐ヶ谷姉妹のエリコさん(木村多江)と、ミホさん(安藤玉恵)の、タイトル通り「のほほん」とした二人暮らしの日常をひたすら描いたホームドラマ。物語は、六畳一間のエリコさんの部屋に入り浸って3ヶ月経ったミホさんに、エリコさんが「一緒に暮らさない?」と提案するところから始まります。二人のちょっと不思議な共同生活を軸に、阿佐ヶ谷で起こる出来事を描いた作品です。

 著名人の生き様、生涯の実績を振り返るような自伝の映像化は世にたくさんあります。本作も二人の下積み時代の物語といえばそうなのだけど、これは何かを成し遂げ成功を掴むようなサクセスストーリーではありません。ただの「生活」ドラマなんです。

 いわば「ちびまる子ちゃん」や「サザエさん」と同じ。主役が立っているだけで、エピソードは半径数メートルの日常です。ドラマチックな展開があるわけではありません。それでも、ホームタウン阿佐ヶ谷を舞台に街の人々との交流やふたり暮らしの日々には、まぎれもなく「二人の生き様」があられています。豆苗を育てたり、紙パックのジュースでゼリーをつくったり、マーガリンのことをバターと呼んでいたり……その平凡な日常こそが、二人の生き様なのです。

 漫画の実写化の場合、原作への思い入れが強い読者が多いためにキャスティングにはかなり苦労があると思います。ただ、それ以上に実在の人物を別の人が演じるケースは厳しい目が向けられます。そんな高いハードルがある中、よくぞよくぞ実写化してくれました!

 髪形、メガネ、服装等、見た目を寄せてきているところはもちろんあるものの、木村多江さんと安藤玉恵さんが二人が並ぶとその身長差も、本家阿佐ヶ谷姉妹のようなしっくり感があります。

 もちろん、役者としてのポテンシャルが高いことも二人が本物のように見えるゆえんです。実際に阿佐ヶ谷姉妹になるためには、お笑いのネタや歌は避けては通れない道。木村さんのインタビューで「セリフも歌もコントもヒマさえあればずっと練習している」という話があった通り、努力の賜物を感じます。そして見た目やネタだけでなく、台詞回しや仕草が、とにかく似ている。喋り方のトーンや間まで、バラエティでみている本物と観間違うほど。本当によくできたキャスティング!

 そして何気にナレーターをしているのが、事務所の先輩であるシティボーイズのきたろうさんなのもおもしろみがあります。

2021.11.29(月)
文=綿貫大介