溌剌とした明るさと包容力、まっすぐな熱さを持ち、嘘のない芝居で、観客の心に訴えかける演技者。ショーでは、その恵まれたフィジカルを駆使したダイナミックなダンスと、豊かな声量で聴かせる歌で、観客を圧倒してきた珠城りょうさん。

 宝塚歌劇団トップスターとして活躍し、今年8月15日に歌劇団を退団したばかり。その珠城さんの退団後1作目は、宝塚歌劇団の花組と月組の100周年を記念しおこなわれる、祝祭感あふれるOG公演『Greatest Moment』だ。

 大きな話題となった退団公演について、退団後の今、退団後初めて舞台に向かう想い、そしてこの先のこと……。ストレートな思いを語っていただきました。

» インタビュー【後編】はこちら


「できるだけ笑顔で、みなさんへの感謝と幸せな気持ちを伝えて去りたかった」

――退団から2カ月以上が経ちました。今はどんな心境でいらっしゃるのでしょうか。

 退団したという実感より、宝塚でのことが夢の世界にいたような感じで、在団していたことが信じられないような……夢から醒めたような、そんな感覚です。

――トップスターというのは、やるべきことも多く、責任も大きい。それだけ大変な立場なのでしょうね。

 もちろんやるべきことは多いし、やっていることはハードで体力的には大変だったと思います。

 でも、組もとてもいい雰囲気でしたし、舞台に関しては本当に組の皆さんが、私を支えてくれていましたから、大変って思ったことはあまりなくて。

 それよりも在団中は、世間からの評価というか……どんなに頑張ってもなかなか認めてもらえなかったり、嘘がまるで真実かのように語られてしまったりすることのほうがしんどかったですね。

――退団日はそんな様子も一切感じさせず、ほっこりとあたたかなムードに包まれた千秋楽でしたよね。珠城さんも涙を見せることなく笑顔で。あの日、組の皆さんからどんなふうに送り出されたのでしょうか。

 千秋楽の日、楽屋入りのときも出のときも、みんながセレモニーをやってくれましたが、決して湿っぽい感じじゃなく、明るい感じで送り出そうとしてくれているのを感じました。

 私自身、ファンの皆さんやお客さま、月組のみんなにはできるだけ笑顔で「ありがとうございました」という感謝と、いかに自分が幸せだったかという気持ちを伝えて去れたらと思っていましたから、それをきっと汲んでくれたのでしょうね。

 それでも、千秋楽の挨拶の最中、涙を流している下級生たちの姿が視界に入ったときには、感極まるものがありましたし、素直にその気持ちが嬉しかったです。

「宝塚最後の日、やっと自分で自分を認めてあげることができた気がします」

――ちなみに次号12月7日発売のCREAは贈りものの特集なのですが、退団時に印象的だった贈られたものや言葉などはありますか。

 たくさんありますが……宝塚を退団したときに、退団公演を観に来てくださった大勢の方、そして卒業された先輩方から掛けていただいた「本当によく頑張ったね」という言葉でしょうか。

 それまで、「すごい」とか「素敵」と言っていただくことはあっても、「頑張ってるね」とか「頑張ったね」と人から言ってもらうことって、あんまりなかったことに気づいたんです。

 ある意味、トップっていろんなことができて当たり前で、頑張って当然だし、努力して当然ではあるんです。それだけの立場で、それだけのことをさせていただいているわけですから。しかも周りには、自分より下級生のほうが多くなっていたのもありましたし。

 でもあそこで、私のことを下級生時代から見てくださっていた先輩方から「本当によく頑張ったね」って言っていただいたときに、ここまで頑張ってよかったなって、やっと自分で自分を認めてあげることができた気がして、自然と涙が溢れてきたんです。

 月組のトップとして自分が積み重ねてきたこと、努力してきたことが、すべて浄化されるような気持ちになったんですよね。初めて認めてもらえた気がした、というか。

 そのとき、自分はずっとその言葉を人から言ってもらいたかったのかなって思いました。

2021.11.03(水)
文=望月リサ
撮影=鈴木七絵
動画=松本輝一
ヘアメイク=赤松絵利(ESPER)
スタイリスト=重光愛子(A.K.A.)