記憶に残るドラマとして熱狂的ファンが多い脚本家・坂元裕二さんの作品。

 ともにファンを公言するフルーツポンチ・村上健志さんと、早稲田大学教授の岡室美奈子さんに、坂元作品の魅力を語っていただきました。

坂元裕二さんとは…

1967年、大阪府生まれの脚本家・劇作家。19歳のとき、初めて書いた脚本でフジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。23歳で社会現象となった「東京ラブストーリー」を手掛け、今日まで数々の名作を世に送り出している。

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坂元作品は私たちの日常を肯定してくれる

村上 まずは新作の「大豆田とわ子と三人の元夫」(以下「まめ夫」)、とても面白かったですね。

岡室 私はあのドラマを「雑談ドラマ」と名付けています。基本的に坂元さんのドラマって雑談のような日常会話が大事なんですよね。コロナ禍で人と直接話す機会が減った今、雑談がどんなに大切かを改めて気づかされました。

村上 あの話は大豆田とわ子(松たか子)がドジをしながら会話しているだけでいい。その日に起きた事柄に対していろんな人が例え話やあるあるを言っている感じが、ザ・坂元作品ですよね。

岡室 ストーリーを雑談のような日常会話に落とし込んでいるので、主人公の親友のかごめ(市川実日子)の死など、雑談として気軽に語れないことは直接的には描かれていない。それはとわ子本人が知っていればいい話で、ちょっとずつ時間をかけてかごめのことを喋ることでとわ子が癒やされていくのを見ると、私たちの人生でもそうだよなと思わされます。

村上 物語が動く最初のきっかけは、亡き母のパソコンのパスワードが元夫の飼っていたペットの名前だということ。そういう些細なことからいろんな人の心が動くっていう、誰にでも起きそうなことがどんどん続いていくんですよね。

岡室 劇的なことは起こらないけれど、心に刺さるセリフが多いですよね。不意にはっとさせられる。

村上 基本的に会話劇だから、セリフが立ちますよね。セリフはもちろん、要はこの人たちの雑談をずっと聞きたいと思えるくらい魅力的なキャラクターばかり出てくるんです。会話のなかから、この人はカラオケでこの曲歌いそう、こういう食器が好きそう、などと勝手に想像したくなる。

岡室 ドラマや映画の役をそんな風に想像して好きになることってほかにはあまりないですよね。

2021.09.23(木)
Text=Daisuke Watanuki
Photographs=Ichisei Hiramatsu

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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