問題意識やテーマ性よりもあくまで会話劇を楽しもう

村上 作品が好意的に捉えられている一方で、「それでも、生きてゆく」など重い作品が多いと敬遠している人もいますよね。

岡室 「東京ラブストーリー」が大ヒットして以降もいろんな作品がありますが「わたしたちの教科書」が現在のイメージを決定づけた転機だと思います。それは「坂元さんが書きたいと思うことを書くようになった」という意味で。

村上 テーマ性も色濃くなってきたことで社会派ドラマを作っていると思われがちですが、社会を糾弾したいわけではなく、問題自体に興味があるから作品にしているだけなんですよね。その問題が現実にあるから出てくるだけで、僕は観ていて重くて嫌だなと感じることはないです。

岡室 「いつ恋」の地方格差や若者の貧困、「問題のあるレストラン」の女性差別など、問題を描く際にも糾弾するわけではなくて、弱者に寄り添う姿勢が徹底していますよね。そこにはちゃんと優しいまなざしがあるから、気負うことなく観てほしいです。

村上 入門編として「最高の離婚」や「カルテット」から観ると、坂元ドラマの特徴は摑めると思います。どの作品も注目するべきは会話なんです。あらすじやテーマを意識して観ようとするのではなく、個性的な登場人物の会話を楽しもうというスタンスでドラマを楽しめばいいんですよ。

岡室 「カルテット」は家森さんの泣き顔を観るだけで十分価値がありますよ(笑)。光生や家森なんかは本編とは別のストーリーを100話くらい作れそうですよね。

村上 たしかに「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」に近い感覚かも。キャラが立っていればエピソードはなんでもよくて、ただ会話を聞いていたい(笑)。

2021.09.23(木)
Text=Daisuke Watanuki
Photographs=Ichisei Hiramatsu

CREA 2021年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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