吉本ばななのベストセラー『キッチン』に収録されている名作小説「ムーンライト・シャドウ」の映像化に挑んだ小松菜奈さん。

 エンターテインメントを届ける側にいる人の、エンターテインメント愛とは。


大切なのは、気持ちが届くこと

「その箱に座ってください」

 そうカメラマンから告げられると、小松さんは自由に、大胆に、次々とポージングを繰り出した。

 短い時間のなかでも、やるからには面白いものを表現したいんです。『こういうのはどうですか』みたいに、カメラマンさんへ無言の提案をしていました(笑)」

 新作は、吉本ばななの小説を映像化した『ムーンライト・シャドウ』。映画の撮影現場でももちろん、彼女のアイデアは湧き出ていた。

 「小説を映像化する作品のときはどちらかというと自由に表現するようにしているんです。一番大切なのは観た人に気持ちが届くかどうかだから。今回演じたさつきは恋人の等を突然失ってしまうのですが、等って生きている時でもどこか目が合わないような不安さがあるんです。

 だから『ちゃんとココに存在するんだよね』と確認する意味でも、演じている時は触れることを意識しました。好きな人をムダに触っちゃうって、すごく自然なことだから」

 活発なアイディアの交換は、時にイメージの違いも生む。

「衣装合わせのときに『えっ、洋服こんなに派手なの?』とビックリしちゃって(笑)。死に直面するさつきはモノトーンのイメージがあったけど、エドモンド(・ヨウ監督)のイメージは真逆。『髪には青いエクステを付けたい』とか、『マスカラも青くしたい』、『部屋のセットはもっとクレイジーに』と洋服以外にも色々注文していました。でもそれがすごく効いているんですよね。

 ただ死と向き合う暗い話ではなく、希望の光があることを感じるというか。イメージになかったことを提案されたときに『取り入れてみよう』と柔軟に動けたほうが、結果的に面白い気づきがある。そのことを実感しました」

2021.09.11(土)
Text=Kozue Matsuyama
Photographs=Erina Fujiwara
Styling=Chie Ninomiya
Hair & Make-up=Kie Kiyohara(beauty direction)

CREA 2021年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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