映画初共演を果たした池松壮亮とオダギリジョー

 今の日本における“映画俳優”の定義は曖昧だが、池松壮亮とオダギリジョーを映画俳優とカテゴライズすることに、異議を唱える人はいないだろう。

 意外にもこれまで映画での共演歴がなかった彼らは、2021年7月2日(金)に公開される石井裕也監督の『アジアの天使』で、映画初共演を果たした。

 2人が演じるのは兄弟。弟の剛(池松)は妻を病気で亡くした小説家で、兄の透(オダギリ)の「韓国に仕事がある」という言葉を頼り、8歳の息子を連れてソウルを訪れる。

 かねてよりお互いの仕事に注目していた2人は、オール韓国ロケで兄弟という濃密な関係を演じたことで、同志ともいえる関係性で結ばれた。9月オンエアのドラマでは、監督&主演という形でタッグを組む。

 お互いへの敬意が伝わるこの対談からは、2人がなぜ映画俳優と呼ばれるかが伝わってきた。


池松くんは想像したものと違う答えを出してくれる人

――映画ではこの『アジアの天使』が初共演だったんですね。

オダギリジョー(以下、オダギリ) 同じ作品に出てることはあったんですが、ちゃんと芝居を交わすのは、三谷幸喜さんのWOWOWのドラマ(「大空港2013」)以来だから……?

池松壮亮(以下、池松) 7年ぶりですね。

オダギリ とても久しぶりだったし、池松くんの活躍はもちろん見ていたので、共演が楽しみでした。

池松 僕もすごく嬉しかったです。制作の面でもお芝居の面でも、本当にいろいろと助けてくださいました。兄弟という特別な関係をオダギリさんと演じる時間がなにより楽しかったです。

オダギリ 僕も楽しかったです。台本を読んである程度想像するじゃないですか。でも本当は、その想像を超えたものを見たいんですよね。完成した映画を観た時も、僕が出ていないシーンの池松くんに「へえー!」と驚かされることがいくつかあって、観ていて嬉しかったです。

池松 オダギリさんのお芝居のセンスは、唯一無二で、人が普通選べないことを軽やかに選択されます。今回の役に関しては、独自の視点のあるユニークなお芝居で、一番近くで何度も笑わされました。

 海外で仕事をすると、言葉や文化が違います。そこには必ず感情の出し入れ、噴出の違いが出てきます。日本にとどまることなく世界を回ってきたオダギリさんが、瞬間瞬間でどんなことを選択するのかすごく楽しみでした。

 結果わかったのは、深いパンク精神からくる表現者としての色濃い豊かさと、ヒューマニストであるということでした。

――透はアウトロー的でいい加減で、弟の剛は常に振り回されてイライラしっぱなしです。それなのに、透は剛にとってタイトルが意味する“天使”のように見えました。

池松 僕(剛)にとっては、どうあれ天使でしたね。どうしようもないところもたくさんある兄貴でしたけど(笑)。この映画に描かれる人物たちは、それぞれが立派ではなく、どうしようもなかったり、損失を抱えていたり、つまりみんなが脆く、不完全でヘンテコです。

 だからこそ、その時々で、誰かが誰かにとっての天使として存在します。透のような役の中に真理を見出し、それを表現するには、相当なテクニックと人間性が必要だと思います。オダギリさんは飄々と、軽々と、さりげなく、素晴らしい塩梅でやられていて、感動しました。

オダギリ いやいやいやいや、とんでもないです……(笑)。

2021.06.30(水)
文=須永貴子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=西村哲也(オダギリさん)
ヘアメイク=FUJIU JIMI(池松さん)、砂原由弥(オダギリさん)