新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからすでに1年。日々、移ろいゆく状況や価値観の多様化に皆が戸惑い翻弄される状況下にあって、歌舞伎の未来を担う若手歌舞伎俳優のみなさんは、この事態とどのように向き合い日々の舞台に臨まれているのでしょうか。スペシャルインタビューでその想いを伺います。


一日四役の大活躍から一転、“すべきことがなくなった”自粛期間

 中村梅枝さんに「CREA WEB」で以前にインタビューさせていただいたのは2019年11月のこと。歌舞伎座で11、12月に演じた役についてだけでなく、初心者向けに歌舞伎の楽しみ方を多方面から語ってくださったのでした。

「歌舞伎は美を求める演劇なんです」前回インタビューを読む

 明けて2020年。梅枝さんは国立劇場の初春公演にご出演されたものの、それからまもなくコロナ禍により状況は一変。舞台出演の予定のない日々が続くことになったのでした。

 「3月に出演予定だった舞台が中止になり、やがて7月まで歌舞伎の本興行がないということがわかった時はショックでした」

 前回のインタビュー翌月、梅枝さんは女方屈指の大役『壇浦兜軍記』の阿古屋を始め、念願だった『神霊矢口渡』のお舟など、一公演中に四役を演じて大活躍。それぞれに彩りの異なる役で観客を魅了していました。

 「とても充実した月でした。体力的にも精神的にも大変ではありましたが、初役のお舟は演じていてとても楽しかったですし、1日に何役も演じることで得られるものは非常に大きいんです。今、そのありがたみを痛感しています。

 ちょうどあの頃は、阿古屋の経験を通して役を演じるということがそれまで以上に面白くなっていた時期でもありました。役に対する見え方が変わり、ちょっと出ているだけの役にもさまざまな発見があって芝居に対する意欲が増していたんです。そんな時にすべきことがまったくなくなってしまったのです」

 長い休みの間には「歌舞伎は滅びる」と思ったこともあったそうです。

「その危機感は今も抱いています。すぐにどうなるということはなくとも、何か抗いきれない大きな流れになっていくのではないかと……。そんな中でも何とかモチベーションを維持しようと思いましたが、やっぱり現実的な目標がない状況でそれを維持するのは難しいということもよくわかりました」

 冷静に現実を受け止め「後半は静かにしていた」という梅枝さん。

「結局、なるようにしかならないんですよね。決して投げやりな意味ではなくて」

2021.04.13(火)
文=清水まり
撮影=佐藤 亘