カメラが回っていないところでも、ずっと役のままの気持ちだった

――モデルとしての希子さんばかり見てきて、いつもすごく決断が早くて、堂々としていたから、そんな姿想像できない。

 でしょ? でも、あんなふうに取り乱しちゃうのは、私自身、初めての経験でした(笑)。

 周りの人には、「いい日もあれば、悪い日もあるよ」って励まされて。「それ励ましになってない!」なんて言ってるうちに、ちょっと落ち着いたり。

 とにかく常時手応えがなかったです。「よっしゃ、これきたっしょ!」っていう感触が皆無。元々の不安症が3割増しぐらいになったのかな。

――プロダクションノートには、撮影が進むうちに、さとうほなみさんと希子さんのお互いの関係性が変わっていったと書いてありました。映画の撮影とはいえ、演じる当人としてはドキュメント的な感覚があった?

 そうなんですよ。順撮りだったことに救われました。順撮りじゃなかったら本当にどうなっていたか想像ができない。とにかくレイの感情の浮き沈みが激しかったので、廣木(隆一)監督が長回しで撮ってくださったことで、自分の中で感情をつなげやすかった。

 監督がすごく臨機応変に、私たちの感情の変化に応じて、「ここでこれ変えよう」「あれ変えよう」と、即興でその場の空気を作り上げてくださって。撮影の前の打ち合わせとはまた全然違うものが現場で積み上がっていったこともあります。

 ほなみさんとは、戦友みたいな感じですね。終盤は、彼女がそばにいてくれないと、水原希子の精神状態としても、レイとしてもつらかった。レイと七恵、2人の気持ちが自分たちの気持ちとリンクして、お互いがお互いにしがみついていないと前に進めないような。そのぐらいの精神状態になって、カメラが回っていないところでもずっとくっついていたり、手を握っていたりしてました。

――現実と役がごちゃ混ぜになっていった?

 そう。今まで、そういう気持ちになったことってなかったし、もしプライベートでそういう気持ちになっていたとしても、何だろうな……カメラが回っていないところでは、こんな役のままの気持ちでいるのはまずい、突き放さなきゃいけないと思ったり。

 相手を「好き」っていう役だから、ずーっとその人といたいし、その人のことを目で追ってしまうけど、それをやっていて変だと思われるのが嫌だから隠そう! ってところまではあったんです。

 でも今回は、カメラが回ってないところでも。惜しみなく、全てを出し切っていた。それを受け入れてくれたほなみさん、見守ってくれていた監督と、現場のスタッフの皆さんと過ごした時間は、最高に濃密でした。

2021.04.14(水)
文=菊地陽子
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=小蔵昌子
ヘアメイク=白石りえ