ボーダーレスに活躍 歌舞伎俳優の尾上松也さんにインタビュー

 歌舞伎界の次世代を担う若手として活躍している尾上松也さん。

 昨年のコロナ禍に入った直後には、いち早くYouTubeで配信された『レ・ミゼラブル』の「民衆の歌」の合唱にミュージカル界のスターに並んで参加したり、松本幸四郎さんとともに『歌舞伎家話』と題して双方の自宅からオンライン対談を配信したりと、意欲的な姿を見せた。

 大ヒット作として話題となったTBS日曜劇場「半沢直樹」ではIT企業の社長役を演じて注目を集め、その後はバラエティ番組への出演する機会も増えている。

 そんな松也さんが、漫画が原作の映画『すくってごらん』で、映画初主演を果たした。

 世界初の「金魚すくいムービー」と謳うこの映画は、斬新な映像と音楽表現で創り上げられたこれまでにないエンタテインメント作品。松也さんはどんな思いでこの作品に出演し、会社員・香芝誠を演じたのだろうか?


映画『すくってごらん』エリート銀行マン役で見せた新たな一面

――映画『すくってごらん』に出演されたのは、どんな理由からですか?

 一番の決め手は真壁監督が描こうとしている世界観に惹かれたからです。このお話をいただいてから原作と脚本を拝見したのですが、劇中に出てくる歌やラップは漫画の原作には全く出てこないんです。

 どうしてわざわざややこしいことを取り入れてこの漫画を表現しようとお考えになったのか、この感じを映画にしようとするなんて、この方達はどうかしてる!? のかなと(笑)。そんな真壁監督のこのチャレンジ精神が僕の心に一番響いて、一緒にチャレンジしたいなと思いました。

 映画では「金魚すくい」がひとつの大きな要素になっていますが、半端ない数の“金魚の皆さん”にご協力いただいて不思議な世界観を作っていました。日本ならではの映像美を表現できたのは、金魚の存在が大きかったと思います。

――今回演じた香芝誠の役作りや現場で印象に残っていることについて教えてください。

 香芝は、劇中で突然歌い出すのですが、それは彼の癖のような自然現象なんです。

 とても滑稽なことですが、本人が思っていることや話していることが、いつの間にか歌やラップになっているだけなので、香芝自身は“何も面白いことはしていない”という平然とした感じでないと作品として成立しないと思いました。

 百田夏菜子さん演じる吉乃というヒロインに思いをぶつけるところはストレートな気持ちを出せばよかったのですが、それ以外は歌っていようが、ラップをしていようが、モノローグで表情筋をつかっていようが、香芝という人物が持つ人間性を保つことに努めました。

 そうでなければ単なるミュージックビデオになってしまいますので、監督と話し合って意識して作っていたところです。

 この映画を撮影したのは2019年の7月で、1か月ずっとロケ地となった奈良県に滞在しました。この限られた期間に同じ場所で同じキャストとスタッフとともに24時間、この『すくってごらん』のことだけを考えてともに過ごしていたのですが、僕が普段携わっている舞台作りと近い感覚で、改めて映画作りって楽しいなと思えたんです。

 僕自身、映画の経験はそれほどありませんが、これまで舞台で主演を勤めさせていただいたときに大切にしてきたことは、スタッフの方、共演者の皆さんと一緒に作品作りを楽しむこと。作る側が楽しいと感じていないと観る側にもそれは伝わってしまうと思うんです。

 ですのでいつもと変わらないスタンスで現場作りをしたいと考えていましたら、今回ご一緒した皆さんとは波長が合うというか、すごくいい雰囲気で撮影することができました。

2021.03.13(土)
文=山下シオン
撮影=佐藤 亘
スタイリング=椎名宣光
ヘアメイク=岡田 泰宜(PATIONN)