日々の暮らしの中で、心からいいなと思ったものだけを投稿するアメリカ在住の文筆家・塩谷舞さんは、そのエシカルなライフスタイルが大きな注目を集めています。初の著書『ここじゃない世界に行きたかった』を上梓した塩谷さんが語る、「五感に心地よい」おうち時間のススメ。


●コツ1 家の中のユーザーエクスペリエンスを向上させる

――「ステイホーム」でおうち時間が増える中、どうやってストレスを溜めない空間をつくる工夫をしていますか?

塩谷:私、昔はすごく部屋が散らかっていたんです。ゴミ箱と床の区別すらつかないような……(汗)。でもそうした生活から脱したい! というときに大切にしたのが、UX(ユーザーエクスペリエンス)の向上でした。たとえば脱いだものを置く場所がないとか、帰ったときにマスクを置く場所がないとか、ルールの決まってない状態だとすぐに散らかってしまいます。

 だから暮らしを整えるといったとき、まずオシャレよりも、ものの置き場をすごく意識して決めています。洗いカゴとまた着るもののカゴがごっちゃになったりすると、いちいちイライラしやすくなりますから。

――それ、すごくわかります!

塩谷:オフィスだと、それなりにUXが最適化されてると思うんですよ。水がある横にコップを置く、コピー機の横に用紙があるとか。でも家の中って、誰がクレームを言うわけでもないので意外と最適化を怠けがち。10年、20年そういう空間で住んでいると、合理的じゃないものの置き方に身体が慣れてしまう。

 基本的に私は古道具など手触りのあるものが大好きなんですが、寝る直前に電気を消すのが面倒にならないよう、Google Homeと連携したスマート電球などを使って、起きてから寝るまでの所作に無駄がないようこだわっています。

――起きるときや寝入りばなの、自分にとって心地よいリズムを意識されてるんですね。

塩谷:私は自分にまったく期待をしてなくて、洗濯も原稿が忙しくなるとサボりますし、料理も忙しくなると野菜を蒸すだけ(笑)。だから、適当にやっても破綻しないためのルールをあらかじめつくっておくんです。

 とにかくものをなくしやすいタイプなので、「迷子にならないようものの住所を決める」「使いやすい位置に最適化する」というのをルール化しています。

●コツ2 「見立て」の力で、ものを増やさない

――デスクまわりはどうやって整理していますか?

塩谷:そもそも最初からあまりものを持たないよう、ミニマルにしています。文具なら、赤ペン1本、マーカー1本、鉛筆1本、ボールペン1本、消しゴム1個あれば大丈夫。それ以上は買わないし、契約書なども基本的には電子ペーパーに統一してもらっているので、デスクの上も散らかりようがない。文具を使うのは、原稿に赤入れをするときだけですね。

 モニターをデュアルディスプレイにしたいとか、マウスはこれじゃなきゃ嫌だとか、パソコン周辺機器のこだわりが増えれば増えるほどそこから動けなくなります。コロナ禍でなければ、私はあちこちよく動くほうで、飛行機の中でも仕事をしたいタイプなので、ノートパソコンはすぐに抜いてパッと持って行けるよう身軽な状態にしています。

 目線が高くなるようなスタンドと外付けキーボード、あとは脚を組まないよう足置きくらいは用意していますが、あまりデスク環境にこりすぎるとそこから動けなくなるので、できるだけシンプルにしています。

――なるほど!

塩谷:常々思うのですが、便利グッズの多くはかえって便利じゃない(笑)。ケーブルを小分けで収納するためのケースとか、排水溝だけのための掃除道具とか、「この用途のためのこれ」って細分化されたグッズって、場所をとるばかりで、収納スペースを占領してしまう。

 日本には「見立て」という便利な概念がありますし、だいたいあるもので代用できたりします。たとえば、風呂敷のような大きな布はエコバッグにしたり、タオルのように使ったり、ピクニックシート代わりにもなります。むやみにものを増やさずに、かつルールを決めておくと、私のような短期記憶の弱いずぼらな人間でも、生活が破綻しないんです。

●コツ3 自然の香りでお部屋を満たす

――そんな、ものを極力置かない塩谷さんが愛用しているものは?

塩谷:マイナーかもしれないんですが、まず茶香炉です。これは陶器でできていて、キャンドルの火でお皿にのせた茶葉を炊くものです。

 もともと、ルームフレグランスのケミカルな匂いや柔軟剤の香りがすごく苦手だったのですが、数年前にお茶にハマッてから感覚が冴え渡ったのか、よりダメな匂いが増えてしまったんですね。そんなとき、六本木にある「料理屋 橘」という日本料理屋さんで、茶香炉から広がる香りに嗅覚が大喜びしたんです。

 日頃から緑茶の茶葉をほうじ器で火にかけて、ほうじ茶にして飲んでいたのですが、そのときに広がるフワッとした香りが大好きでした。茶香炉は、そうしたお茶の香ばしさをずっと嗅いでいられるのが魅力です。

 茶香炉専用の茶葉ではなく、私は自分が飲んだあとのお茶っ葉を天日干しで乾燥させたものを使っています。出がらしですが、それなりに香りが残ってるのでけっこう楽しめますよ。なによりこれなら無駄なゴミが出ないですし。

 とくに原稿の執筆にスイッチが入らないときは、茶香炉頼り。気持ちを落ち着かせて、集中力を引き出してあげるおまじないのように使っています。

 コーヒーや紅茶の出がらしも使えますし、自分の好きな自然の香りで部屋を満たすのは、おうち時間の幸福度をぐっと上げてくれると思います。

2021.03.08(月)
文=ライフスタイル出版部
写真=塩谷舞、杉山拓也(ポートレート撮影)