東京の上流階級に生まれ育った箱入り娘と、猛勉強して東京の名門大学に入学し、家庭の事情で中退せざるを得なかった上京組。山内マリコの原作小説を岨手由貴子監督が映像化した『あのこは貴族』は、異なる階層で生きる女性たちの葛藤と成長を描いた物語。

 結婚が女の幸せだと疑わずに育ったものの、恋人に振られ、20代の後半で初めて人生の岐路に立たされる主人公の華子を演じたのは門脇麦。本当の自分らしさを獲得して力強く歩んでいく華子の内面的な革命を、控えめな芝居で雄弁に表現している。

 一方、地方から上京してきた美紀に扮したのは水原希子。挫折を経験しながらも東京の街でひとりたくましく生きていく芯の強い女性を、持ち前の華やかさとパワフルさでのびのびと演じている。

 華子と美紀のように育った環境やキャリアの築き方、パーソナリティーも全く違うけれど、お互いと共演できたことが「すごくうれしかった」と声を弾ませるふたり。

 俳優としてもリスペクトし合う、東京に生きる女優たちの素顔に迫った。


ふたりならすごくいい作品になると思った

――おふたりはこれが初共演となりますね?

門脇 希子ちゃんのことは『ノルウェイの森』で初めて知って、すごいステキな女優さんがいるなと思っていたんです。今回は同じシーンが少ないことはわかっていたけれど、希子ちゃんとだったらすごくいい作品ができそうだと思っていました。

水原 麦ちゃんは同世代の女優さんの中でもすごく輝いていらっしゃるので、緊張するけど、一緒にお芝居できたらとても成長できるだろうなと思ったんです。以前、常盤貴子さんとドラマで共演したときに、(常盤さんが)「麦ちゃんと希子ちゃんは合うと思うよ」と言ってくださったことも印象に残っていたんです。

門脇 私は個人的に、今回の美紀役が希子ちゃんにぴったりだなと思っていて。初号試写で初めて美紀を見たときは、もうサイコーでした! あまりにも魅力的で。希子ちゃんって、笑うときにいつも楽しそうじゃないですか

水原 ふふふ。

門脇 ともするとやさぐれた印象になってしまう美紀が、いつもがんばって希望を見つめて掴もうとしている前向きなキャラクターになっていたんです。それは希子ちゃんが演じたからこそ。台本をもらったときの印象よりもさらに魅力的になっていました。いい意味で華子との対比もすごく出ていたしね。

水原 私は写真館でぐぐっと華子にカメラが寄って行くタイトルのシーンが大好きなんです。すごい引き込まれて鳥肌が立っちゃって。さすが麦ちゃんって思ったし、なんかとてもかっこよかったです。

――映画では対照的に描かれている華子と美紀ですが、おふたりはどちらに近いと思いましたか?

門脇 選ぶとしたら美紀です。家族や周囲の期待に応えながら「自分はこれでいいんだ、これでいいんだ」と耳を塞いで耐え抜いてきた華子には、あまり共感できなくて。台本を読んでどうしたものかなーって思いました。私は華子のように我慢強くないし、やりたいと思ったことは全部やってきたタイプなので。

水原 私も完全に美紀ですね。美紀も私も東京に憧れて上京してきた田舎娘。違う世界を見てみたいという好奇心でどんどん突き進んで、勝手に巻き込まれて傷つくこともある(笑)。でも、そうやってどんどん揉まれながら削ぎ落とされていって、最終的にシンプルな生き方になっていく感じに共感できました。挫折を経験したからこそ人の気持ちを汲み取ることができる寛大な部分もステキだし、私もそうありたいと思っています。

2021.02.18(木)
文=松山 梢
撮影=佐藤 亘
スタイリスト=吉田 恵(門脇)、小蔵昌子(水原)
へア=shuco(3rd/門脇)
メイク=石川奈緒記(門脇)
ヘアメイク=白石りえ(水原)