外国人の監督と仕事をしたのも、地元山形で撮影を行ったのも、初めての経験だった

 岡本かの子が昭和10年代に書いた短編小説『越年』と『家霊』の2作を原作に、台湾の女性映画監督、グオ・チェンディ(郭珍弟)が撮った『越年 Lovers』が、2021年1月15日(金)に全国公開される。

 本作は、3つの物語で構成されており、台湾の台北と彰化、日本の山形、マレーシアのクアラルンプール、それぞれの土地で男女の恋愛のさまが描かれている。

 日本編の主演は、山形出身の橋本マナミと、峯田和伸(銀杏BOYZ)。2003年に、田口トモロヲ監督・宮藤官九郎脚本・みうらじゅん原作の映画『アイデン&ティティ』の主人公役で俳優デビューして以降、主演を含め、数々の映画やドラマに出演してきた峯田だが、外国人の監督と仕事をしたのも、地元山形で撮影を行ったのも、初めての経験である(峯田の出身地である山辺町でもロケが行われている)。

 本作品の話だけでなく、これまで出演してきた作品についてや芝居との向き合い方など、銀杏BOYZの前身バンド、GOING STEADYの頃から峯田にインタビューし続けてきた音楽ライター、兵庫慎司がじっくりと話を聞いた。

» インタビュー②はこちら


猛吹雪の中での撮影。翌日のライブでは歌詞が全然出てこなくなった

――まず、この映画、山形出身だから話が来たってことですよね。

 うん。台湾パートと、マレーシアパートと、日本パートがある。日本パートは雪景色がほしい、というので選ばれたのが、山形らしくて。

 岡本太郎さんゆかりのロッジが蔵王にあってね、岡本さんの直筆のでっかい額が飾られている。そういうのもあって、山形が選ばれて、山形出身の人で、白羽の矢が立ったのが、橋本マナミさんと僕だったんじゃないですかね。

――外国人の監督と映画を作る、というのは、どんな体験でした?

 おもしれえなと思ったのは、最後のほうで、俺と橋本マナミさんふたりの、雪のシーンあるでしょ。あれがね、ずっと引きなんですよ。

 画面の下半分が雪景色でさ、上半分が空の薄い水色でさ、ふたりがちっちゃく……日本の監督だったら、セリフ言ってる人を寄りで撮ると思うんだけど、寄んないでずっと引きの画面で、あの景色の中で撮ってる。

――ああ、確かに寄りますよね、普通。

 台湾の人、地面が全部白で埋まってる景色なんて見たことないから、それを撮ろうと思うんだろうね。

 その画の中で、ちっちゃいふたりがなんか言い合ってる、それでもう画が成立してんだよね。

 俺が知ってる台湾映画と、近いというかさ。オフ・ビートで、ちょっと淡々としてて。「ああ、台湾の人の感覚っておもしれえな」と思いましたよ。

――撮影で何か強く印象に残ってること、他にもありますか?

 印象に残ってることはねえ、樹氷。蔵王のね。ゴンドラに乗って、てっぺんに行くと、木が氷で包まれて、樹氷になってる。

 それを撮りに行ったんだけど、あれ、年に数カ月かしか見れないんですね。俺、子供の時に見に行ったことがあって。家族でスキーに行って、それ以来で。

 猛吹雪で、すごいんだ、もう。カメラ回ってる時は、みんながまんしてるけど、結局1時間ぐらい撮って、もう逃げるようにみんなで帰って来て。

 それで、俺は次の日ね、東京でライブがあったの。弾き語りで出たんだけど、寒さで脳がやられたのか、歌詞が全然出てこなくなっちゃって。

 大変だったよ、「こんなに歌詞が出なくなること、あるんだ?」みたいな。お客さんも心配してた、「大丈夫? 今日の峯田」って。

2021.01.15(金)
文=兵庫慎司
撮影=佐藤 亘