安定感がありながら、最新のトレンドもばっちり

 そして見た目以上に特徴的なのはそこから立ち昇る香り。メニューの商品説明に「柑橘ハーブソースがアクセント」とあるように、柑橘系の爽やかな香りが第一印象です。タイ料理にもよく使われるバイマックルーとレモングラスでしょうか。しかしその奥からは同時に「いつものココイチ」の慣れ親しんだ香りも追いかけてきて、ある種の安心感・安定感を与えてくれます。

 実際に食べ始めてすぐに感じるのはほのかな酸味。普段のココイチのカレーには無い要素ですね。海老・タイ風のハーブ・酸味、と来て、なるほどこれはタイ料理の「トムヤムクン」をモチーフにしたものかと合点がいきました。

 最近のスパイスカレーの世界では、麻婆豆腐やルーロー飯など、日本人にそれなりに親しまれていつつエキゾチックな印象を与える料理とカレーを融合させるという手法が取られることがよくあり、そのトレンドを捉えたものとしても解釈できそうです。

 昨年リリースされたココイチ流スパイスカレーの第一弾であった「THE チキベジ」は、もっと主流のスパイスカレーに寄せたものでした。名前の通り鶏肉と野菜を主役に、最近のスパイスカレーにおいて特徴的なクミン・カルダモン・カスリメティといったスパイスを立たせたもの。初年は王道に寄せ、次の年には独自性をアピール、という周到な商品展開が興味深いです。

大手チェーンの制約が、独自性となる

 いずれのスパイスカレーも、従来のオーソドックスな「カレーライス」とは、はっきり異なる特徴を打ち出した物だったという事は言えると思います。ですがその特徴の打ち出し方の強度はやや控えめでもあります。

 今回の「エスニックアジア」に関しても特徴的なハーブの香りはあくまでアクセント程度にとどめ、酸味といってもトムヤムクンのようにはっきりと酸っぱいわけではありません。あくまでベースとなる「ココイチのカレー」的な味わいを引き立てつつ新鮮な印象をプラスしているという印象。

 個人店のスパイスカレーがある意味やや過剰なスパイス感や辛さ、食材の突飛な組み合わせではっきりとした特徴を打ち出す形でしのぎを削る中、大規模チェーン店であるがゆえにある程度万人受けする味であることも求められるココイチには制約もあるということでしょう。

 ただし見方によってはその制約ゆえに、スパイスカレーブームとは一定の距離を取った普遍的なおいしさを提供し続けるという、逆の意味で独自性のある路線を取っているのがココイチである、という事も言えるかも知れません。

2020.11.11(水)
文=稲田 俊輔