17世紀から19世紀にかけて、アジアとの貿易を欲しいままにし、独自の軍隊や通貨まで有していた東インド会社。1874年の会社解散後も2度ほど会社所有者は代わったものの、そのトレードマークや社名は生き続け、ハロッズや日本の明治屋などで、紅茶の販売はつづけてきました。

コーヒーはすべて、店内でローストした新鮮な豆をパックしているとのこと

 所有者が再度代わると同時に、この東インド会社が東西の文化を食で融合するラグジャリー・フードの専門店へと生まれ変わったのが2005年のこと。2010年には、メイフェアの店舗がオープン、135年の年月を経て、東インド会社がロンドンに戻ってきたのです。歴史的な存在としての東インド会社を知らないイギリス人はいませんが、東インド会社がいまロンドンにあることは、実はほとんどのイギリス人がまだ知らない、だから穴場的なショップといえます。

東インド会社のユニークな「バウチャー」。10ポンド、25ポンド、50ポンドがある

 扱っている食品は、紅茶、コーヒー、ビスケット、チョコレートを中心に、マスタード、ジャムなど。いずれも「トラディショナルな昔のレシピに従ってつくられたもの」、そこに東西文化の違いを感じさせるような「新しい味を加えたもの」のふたつの方向からアプローチ。例えば、英国伝統のレシピから作られたシンプルなダイジェスティブ・ビスケットがあるかと思えば、マスタード&コリアンダーのビスケットも同じ棚に並んでいる、といった具合です。「東インド会社ならではの、デライト(喜び)とサプライズのある食品、というのがコンセプトです」とディレクターのマナン・バシャンサリさんは話します。「例えばインドのスパイスを英国伝統のマスタードに混ぜる、英国のチーズをフランスのビスケット作りのテクニックで生地に包む、などユニークな食品が数多くあります」。

イギリスのお中元、お歳暮というべく、食品の詰まった贈答用バスケットも各種あり

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text&photographs:Kazuyo Yasuda(KRess Europe)