食は人の営みを支えるものであり、文化であり、そして何よりも歓びに満ちたものです。そこで食の達人に、「お取り寄せ」をテーマに、その愉しみや商品との出会いについて、綴っていただきました。第2回はこの十数年、旅をしながら仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送ってきた本田直之さんです。

◆ ◆ ◆

 僕は年の9ヶ月は旅をし、1ヶ月以上同じ場所にはいない、という生活をかれこれ13年続けていた。今年の3月まで。そして、この半年はほとんど旅にでられないという、かつて想像もしなかった、生活をしている。

 そんな今だからこそ、旅のかわりにしていることがある。日本全国から、美味しいお取り寄せを探して、家で食べる。食べるだけじゃなくて、感じる、体験する、そして想像する。

 取り寄せは通常、お店・料理の味の評判で決めるが、今年はそれに、旅したいところ、行ってみたい場所というのを加えてみた。食する前に、その場所を調べてみる。

 そして、旅をしている自分を想像し、感じて、疑似体験しながら、食べる!これが結構面白くて。

 いまから5年前、『脱東京 仕事と遊びの垣根をなくす、あたらしい移住』という本を毎日新聞出版から出した。その一環でいろいろな地方自治体から声をかけてもらい、訪問した。その中でも、最も行きたかった所で、印象にのこった場所は、島根県の隠岐にある海士町(あまちょう)だった。

 海士町は実は借金101億5000万円を抱える大赤字の島で破綻寸前までいった街だった。山内道雄元町長は給与を50%カットし、その姿に心を打たれた役場の職員達も自ら給与をカットし、日本一給料の安い役場になった。

 そしてその浮いた資金をつかい、起死回生をかけ、島の新鮮な魚介類を本州に送るために鮮度が落ちないようにCASという凍結装置を導入した。

 これにより解凍しても水っぽくならず、長時間鮮度を保て、限りなく生に近い状態で味わうことができるようになり、海士町の特産品をブランド化することに成功し、本州からの外貨を獲得し、町が復活した。

 そしてさらに移住者を受け入れ始めたら、現在、人口の1割が若い移住者になった。この町のテーマは“ないものはない”。開き直りにもとれるし、活躍の場はいくらでもあって、自分次第でどうにでもなるから“ないもの”はない、という意味でもある。

2020.10.20(火)
文=本田直之