自由に旅がしづらくなった今、家にいる長い時間を旅先で過ごすようにリラックスしたものにできないだろうか。目標は「ステイしたくなる」部屋作り。

 そこで、家が一番心地いいと感じている3組のご自宅を訪ね、リラックスできるポイントを探ってみた。


ひとりになれる場所があるから家族との時間も楽しい

●今回紹介するのは……

神奈川県・丹沢在住
井上さん[建築家]家族の4人暮らし
7レーン、約140平米

 神奈川県・丹沢の山の中腹にある、建築家・井上玄さんが自ら設計した「山のセカンドハウス」。

 まず驚くのは、そのユニークな作りだ。南側と北側に大きな窓がある7つの細長いスペースがレーンのように並ぶ。

 リビングダイニングを中心に、暖炉スペース、少し暗めで使い方を限定しない部屋、中庭を挟んで離れなどが続き、それぞれが別の表情を見せる。

 仕切りとなる壁には開口部があり、家族は各棟を自由に行き来しつつ互いの気配を感じながら好きな場所で過ごしている。

 そして、この家には固定された家具がほとんどないのも特徴だ。椅子や照明を家中のあらゆる場所へ、ときにはテラスに移動して季節や天気の変化を楽しむ。

「薪ストーブのそばで本を読んだり、少し暗めの部屋で新しい家のコンセプトを考えたり、天気がいい日はテラスでまどろんだり。

 居場所を替えるとリフレッシュできます。家族もそれぞれ居場所を見つけて、思い思いの時間を過ごしています」

 その日一番気持ちのいい場所へ家具を持ち運ぶスタイルだから、家具はどれも軽く、部屋にはよけいな物がいっさいない。これも、居場所の自由度を高める理由だ。

 最近はこの家で過ごすことが増えているという井上さん。

「もともとここは、別荘というより“住む”イメージで建てたんです。何か特別なことをする場所ではなく、普段通りに過ごす場所。仕事もします。

 ただし事務的な作業はせず、コンセプトワークなどを中心に。家族といてもひとりで過ごせる空間と時間が確保でき、思っていたよりはかどります」

 キャラクターの異なる空間の中に、自分だけの居場所を作りながら家族との距離を調整できる。それが快適な職住一体を実現する家のひとつの答えかもしれない。

 井上さんも家族も「ずっとここにいたい」と思うのもうなずける。

最近整理したもの「本と雑誌」

 新しい家のイメージ作りに使うために持ち込んだ本や雑誌があふれて、部屋のあちこちに散乱してしまう。

「くつろぐ場所はできるだけ物がないほうがいいから、この本棚に収まるだけと決めました。小説などは自宅へ持ち帰るようにしています」

 圧迫感のないコンパクトな本棚に、詰め込みすぎない本の数。これも、すっきり美しい空間を作る工夫だ。

GEN INOUE[設計・施工]

https://architect.bz/

今は旅よりここが心地いい
ステイしたくなる部屋

2020.11.02(月)
Text=Noriko Kiuchi
Photographs=Hirotaka Hashimoto

CREA 2020年11・12月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

きれいな人がしてること。

CREA 2020年11・12月合併号

揺らがない自分でいるための習慣&コスメ
きれいな人がしてること。

定価820円

様々な業界で活躍する人たちの人生を支えてきた習慣とは? 大切にしている美の価値観とは? 時に悩みながらも、美容を通して“自分らしさ”に真摯に向き合ってきた“あの人”に取材。そこから見えてきたのは、揺らがない自分でいるための美容でした。