カツオ漁の基地として賑わった 西伊豆の漁村へ

 今回ご紹介する西伊豆の田子は、波打ち際近くまで山が迫り、そのまま海へとなだれこんだ地形をしています。

 これはプレートが沈み込んでいく地形の特徴。山と海の間の平地が少ないために住める土地が狭く、人口も少ない。

 集落内には信号もなく、そんな素朴な漁村ののどかさが、田子の持ち味だったりします。

 けれど、かつてカツオの遠洋漁の基地として隆盛を極めた頃は、今とは事情が違ったようです。

 田子にある「シーランドダイビングサービス」の山本賢郎さんにお話をうかがいました。

 山本さんの親戚のおじさんたちは、カツオ船の乗組員でした。よくパナマ運河まで遠征して、土佐の流れを汲む一本釣りで漁をしていたとか。

 その頃は田子に活況があり、パチンコ店や映画館、駄菓子屋さんも十数軒を数え、集落内ですべてが揃ったほどだったそう。

 また田子といえば、今でも鰹節の三大名産地のひとつ。伝統の手火山式焙乾法で作られた鰹節は、カツオ本来のうまみを閉じ込め、味も香りも絶品です。

 昨今、鰹節というとパックに入ったものが主流ですが、削り器でシャコシャコと削ったばかりの鰹節をあたたかいごはんにのせ、しょう油を垂らしたら、それだけで大ごちそうです。

 また、名物の「シオカツオ」は丸ごと一本のカツオを塩に漬け込み、乾燥させて作る田子名物の乾干し塩蔵品。“正月”と響きが似ていることもあり、新年を祝うための贈答品でもあります。

2020.08.29(土)
文・撮影=古関千恵子