幾多の困難を超えて美術品を守り、財を投じた先人たちの篤い想いは各地の美術館に作品とともに引き継がれ、今日も新しい物語を紡ぎ続ける。

 各地の想いを引き継ぐ美術館を7館紹介。


◆根津美術館|Nezu Museum

 日本のため、人々のために古美術品を収集した初代、それを守った二代。

 二人の根津嘉一郎が築いた豊かなコレクションと、美しき美術館に、青山の地で出会う。

二人の嘉一郎が願った「衆と共に楽しむ」美術

 東京・青山という都心にあることを忘れさせるほど、閑静な佇まいを見せる根津美術館。

 明治期より実業家として活躍した初代根津嘉一郎の収集品を保存・展示するため、彼の私邸があった地に設立された美術館だ。

 日本・東洋の絵画・彫刻・陶磁器、茶人でもあった初代嘉一郎が愛した茶道具など、幅広いコレクションを収蔵している。

 若い頃から古美術品に関心を寄せていた初代嘉一郎は、一方で個人の趣味という領域を超え、私財を投じて美術品を収集し、海外流出を阻止した。その蒐集ぶりは『根津の鰐口』と言われるほど豪快なものだった。

 そしてコレクションを単に秘蔵するのではなく、『衆と共に楽しむ』ことが、彼の真の願いであったという。

 だが初代嘉一郎は1940年に急逝。彼の遺志は長男の二代嘉一郎に継がれ、翌年根津美術館が開館となった。

 終戦間際の空襲で美術館が焼失するも、46年秋には早くも、疎開させていた美術品を焼け残った洋館で展示したという。

 そこには「傷ついた人の心を日本の美術品を鑑賞することで癒やしたい」という二代嘉一郎の決意があった。

 開館当初約4,700件だった所蔵品は現在約7,400件。なかには国宝7件、重要文化財87件も含まれる。

 建築家隈研吾の設計で2009年にリニューアルを果たした本館で、貴重なコレクションに出合い、緑豊かな庭で四季の自然を楽しむ。そんな姿を、二人の嘉一郎は何より喜ぶことだろう。

Information

2020年11月14日(土)より、同館が誇る名宝が一堂に会する、財団創立80周年記念特別展「根津美術館の国宝・重要文化財」を開催する予定。

根津美術館

所在地 東京都港区南青山6-5-1
電話番号 03-3400-2536
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)
料金 1,300円(特別展)、1,100円(企画展)
休館日 月曜(祝日の場合は翌日)、展示替え期間、年末年始
http://www.nezu-muse.or.jp/
※現在臨時閉館中。再開時期及び特別展の開催については、ホームページにて確認ください

Feature

個性的なコレクションを収蔵
日本全国の、物語を紡ぐ美術館

Text=Yuko Harigae(Giraffe)
Cooperation=Nezu Museum